細身
有岬のやわらかい髪から手を離す。
目を瞑った有岬から、穏やかな寝息が聞こえてきて、安心した。
不躾かな、と思いつつも有岬の部屋の中を見渡す。
シンプルな部屋に変わりはないけれど、兎のぬいぐるみが目につく。
「兎だらけだな…」
思わずそう呟くと、井上は微笑む。
遊園地のブランシュのぬいぐるみが多い。
ベッドヘッドを見ると、有岬の携帯が、小さなかごに入れられている。
井上が買ったおそろいのぬいぐるみが、大事そうに携帯の上に横たえられていた。
自分の携帯を取り出し、ぬいぐるみを眺める。
「…大事にしてくれてるんだな」
自分の黒い携帯についた白いぬいぐるみを指先で撫でる。
それから、有岬が眠っていることを確認して、井上は有岬の手を離した。
おやすみ、そう呟いて、井上は有岬の部屋を後にした。
「沖田、ありがとう」
「いえ。…有岬も先生に会うのを楽しみにしてましたから。来ていただいてありがとうございました」
周は有岬の部屋の扉を眺めながら言う。
井上も同じようにそちらを眺め、周に言うでもなく呟いた。
「痩せたな」
「…もともと細身なんで、なおさらそう見えますよね」
「…なにかあったのか?」
井上の視線が鋭くなる。
周は、一瞬押し黙り、あのことを告げようかと口を開いたとき、やわらかなメロディーが鳴り響いた。
「…すまん、担任からだ。じゃあ、俺行くわ」
「はい。…ありがとうございました」
「いや。おやすみ」
「おやすみなさい」
井上が部屋から出て行ってから、周は鍵をかける。
それから、有岬の部屋へ向かった。
音をたてないように扉を開け、中をのぞく。
珍しくぐっすりと眠っている有岬が視界に入ってきて、周はほっと息をついた。
有岬の様子を眺めていると、マナーモードにしていた携帯が震える。
取り出すと、夜月からの着信を表示していた。
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