体調不良

梅雨のじめじめとした季節が終わり、夏に変わった。
ちょうどいい温度に設定されたクーラーをじっと見つめる。
周は学校に行っていて、寮の部屋には有岬だけだ。
少し咳込んでからタオル地の布団に包まる。
太陽に照らされたグランドを思い出して、もう一度咳込んだ。





「…あ、沖田、桃千は?」

窓から日差しが入り、少し影ができたところを通る。
有岬の友人とすれ違い、井上は思わず声をかけた。
声をかけられた周は立ち止まった井上を見た。
周の鋭い視線に、一瞬押し黙る。
井上も周を見たら、すぐに視線がずらされた。


「今の時期は体調が整いにくいんです」

そう言うと周はすぐに井上に頭を下げて、教室に向かっていった。
井上はそんな周の背中にありがとうと声をかけて、図書室へ向かう。

有岬のいない図書室は、どこか色あせていた。
静かな図書室のいつもの席に座る。
任されていた小テストの丸付けを始めた。



「うさ、熱は下がったけど無理するなよ」

“うん、気をつける”

「なんかあったら言えよ」

こくりと頷いた有岬に微笑んで周は教室の扉を開けた。
遠目からみても、有岬の机が汚れていることに気がついた。
有岬が隣で咳込むのを見て、そっと背中をさする。


“周、今日もダメみたい。医務室にいるね”

「3限に俺も…」

“大丈夫”

「…わかった。でも医務室までは送る」

朝の日差しが入り込む廊下を歩く。
少し頼りない足取りの有岬に思わず背中に手を添わせた。
大丈夫、と周の腕を下ろさせ、有岬は小さく笑った。



「最近うさちゃん具合良くないね」

“大丈夫だよ、先生”

有岬の言葉に、校医はちらりと周を見る。
首を振った周に校医はかすかに苦笑した。
それからそっと有岬が腰かけたベッドに自分も腰かけ、有岬の背中をそっと撫でる。


「当分、僕が勉強を教えようか…?」

“いいの?”

「いいよ。仕事しながらだけどね」

うれしそうな笑みを浮かべた有岬に、周はほっと息を吐く。
当分は安心できそうだ、と頷くと、校医も同じように頷いているのが見えた。
勉強道具を鞄から取り出す有岬を見てから、周も勉強をするために教室へ向かった。
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