宙で止まる

『どこにいる? …メールして、有岬』

そう言って一度通話を切る。
有岬はメールを送り、踊り場に横になった。
横になったほうが、少しだけ楽になった気がした。



屋上の階段にある机をおろしてくれ、と頼まれ、井上は屋上に続く階段に向かっていた。
若いといっても最近運動をさぼっていた身にはきつい。
あー、と声を出しながら、登る。

あと少し、といったところで、カチカチという音が聞こえてきた。
階段のところに隠れて携帯をいじっている生徒でもいるのか。
そう思って、2段飛ばしで駆け登ると、ぐったりとしている有岬がいた。


「有岬…っ、おい、大丈夫かっ」

有岬を抱きかかえ、問いかけると、こくりと頷く。
どう見ても大丈夫には見えない。
井上は有岬を抱き上げ、今度はもっと早く階段を駆け降りた。


たどりついた医務室で、校医に有岬を頼む。
すぐに処置に入った校医の隣で、井上は有岬の携帯から周に電話をかけた。
周は屋上の階段に辿り着いたばかりなのか、まだ息が荒い。


「屋上でぐったりしてたから、医務室「に連れてきた。大丈夫」

そう告げると、周は少し黙って、息を整えてから、今から行くと呟いた。
通話を切り、医務室から発作止めをもらい、息を整えてる有岬に目をやる。
少し落ち着いた有岬は、ぼんやりと窓の外を眺めていた。
そっと有岬の背中を撫でる。
ひんやりとした有岬の体に、井上は校医を見る。


「大丈夫ですよ」

「…はい」

不意に、有岬がぽろぽろと涙を流し始める。
校医の白衣を引き、必死に手を動かした。


「大丈夫だよ、うさちゃん。周君、すぐ来るって」

こくこくと頷いて、布団をかき集める。
小さく膝を抱えた有岬に、井上はもう一度校医を見た。


「…大丈夫ですって。…今はただ、不安なだけです」

「ですが…。…有岬? …その頬の…」

有岬の頬が赤く腫れていることに気付いた井上は、頬に手を伸ばした。
びくりと有岬が体を震わせた。
ぽたぽたと布団に涙が零れる。
井上は伸ばした手をそっと下ろす。
それから、震える有岬を抱きしめた。
ぽんぽんと軽く背をなでてやると、有岬が少しずつ落ち着き始める。


「うさっ…っ」

医務室の扉が乱暴に開かれ、そちらに目を向ける。
入ってきた周は、すぐにベッドに近づき、有岬の頬へ手を伸ばす。


「大丈夫か」

井上が有岬の体から離れる。
こくり、と頷いた有岬に、井上はほっと息をついた。
周も同じように息をつき、有岬に横になるように伝える。


「少し休んでから帰ろうな」

「うん。そうして。井上先生、ありがとうございました」

「いえ。沖田、明日は?」

「休ませます」

「わかった」

そっと有岬の黒髪をなでて、井上は医務室を後にした。



先生とあの子 end
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