事実に気づく

放課後、光は図書室の本棚に隠れていた。
有岬が窓際の席で読書している。
漆黒の髪に、白い肌。
どれも綺麗で、光の苛立ちを増加させる。
有岬が高校で編入してくるまで、光は可愛いともてはやされていた。
急に入ってきた有岬は、儚げで光よりもずっと可愛いと、光の居場所を取った。
体が悪く体育にも出ない彼は、光にとってただ憎い存在でしかなくなっている。

嫌な気持ちになっていたら、急に図書室の扉が開かれた。
入ってきたのは、井上。
本を持っている。


「有岬」

優しい声。
光がいつも聞いている困った声や、楽しげな声ではない。
優しくて、愛おしいという気持ちがあふれている声だった。
気づかれないように目を向けると、井上が有岬の頭を撫でている。
何もかも、光が初めて見る井上だ。


「先生…、生徒は好きにならないって言ったじゃん」

ぎゅっと手を握りしめる。
痛い。すごく痛いけれど、この裏切られた気持ちよりは痛くない。
楽しげに笑うふたりが、嫌で嫌でしかたがない。
光は反対側の入口から、ふたりに気づかれないように図書室から出ていった。



肌寒さが抜けて、少し暑くなってきた。
光はあの図書室で見た光景から数日、準備室に来ていた。


「先生の携帯ってシンプルだよね」

友人が井上の携帯を勝手に眺めているのを見る。
ある思いが浮かび、光はその友人から井上の携帯を取った。


「キーホルダー、可愛い」

そう言い、井上に携帯を返した。
前に友人が言っていたことを思い出す。
ジンクス。


「あ、ほら、俺達今日用があるんだった。行こっ。先生、じゃあね」

急に立ち上がった光に連れられ、友人たちは準備室を後にする。
去っていった生徒たちにため息をつき、井上は残された仕事に手をつけ始めた。



「ジンクス、教えて」

「ん? ああ、キーホルダーのね」

「そう」

「あのブランシュ、ペアのぬいぐるみでさ。たくさん売ってるんだけど、同じ物はひとつもないんだって」

「ひとつも…」

「恋人がそのぬいぐるみを持ってると永遠に傍にいれるって言うのとか、片思いの人が相手にあげると両想いになるとか、いろいろあるよ」

「…じゃあ、そのキーホルダーを見れば…」

光が黙り込んだのを機に、友人たちが何なの、と他の会話を始める。
教室に入れば、窓際の席で昼食を終え、携帯をいじっている周と有岬が目に入った。
携帯を見ると、白い兎のぬいぐるみがついているのが見える。
光は笑みを浮かべた。


「ねぇ」

友人の方を向き、小さく笑う。
それから有岬を指さして、すっとその指を携帯に向けた。


「あ、あれってあのジンクスのぬいぐるみじゃない?」

「あれって、同じ物はないんでしょ?」

「そうだよっ」

「じゃあ、あれが先生とおんなじだったら…」

光の言いたいことがわかったのか、友人たちは楽しそうな顔をした。
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