光の海
「メリーゴーランド楽しかった?」
こくりと返事。
繋がれた手がゆらゆらと揺れる。
井上は有岬の様子を眺めた。
ほんのりと桃色に染まった頬が可愛らしい。
「そろそろ時間だな。…ショップ見てこようか」
有岬の瞳が嬉しそうに輝く。
棚に並べられたブランシュ達を想像しているのか、そわそわとしている。
少し早足になった有岬に井上も歩調を合わせた。
ショップに入り一番最初に目に入ったのは、大きなブランシュのぬいぐるみだった。
どどんと座った彼は、どこか偉そうで井上は思わず笑う。
テンションが上がったのか、握られた手に力が入っている。
有岬が嬉しそうで、なによりだ。
「有岬、好きに見てきていいよ。あの大きなブランシュのところで待ち合せしよう」
こくこくと頷く有岬と別れる。
井上は目当ての棚に向かった。
きらきらと輝く店内に、かわいらしいぬいぐるみ。
有岬の好きなもので溢れている。
周へのお土産を買おう。
そう思い、ぬいぐるみの棚を眺めた。
周はブランシュの仲間のグリが好きで、携帯にグリのキーホルダーが付いている。
季節のぬいぐるみを買って行ってあげよう、とそれを手にし、有岬はレジに並んだ。
買い物も終わり、大きなブランシュの前で井上を待つ。
数分も経たないうちに井上は帰ってきて、有岬の頭を撫でた。
それからすっと手をつなぎ、ゲートへ向かう。
少しさみしげな表情をした有岬に井上は微笑んだ。
「また来ような」
その一言に、有岬は胸を押さえた。
大好きな井上との次の約束。
そっと胸にしまい込み、有岬は井上とゆっくりと歩いた。
ありがとう、と、つながれていない方でボードに書く。
優しく笑みを浮かべた井上に、有岬もそっと笑い返した。
車に乗り込み、しんとした車内で有岬は窓を眺めていた。
ぽう、と光る街燈を眼で追う。
オレンジ色に光るそれはとても綺麗だ。
「有岬は夜景とか好き?」
こくりと頷くと、井上が良かった、と呟いた。
まだ一緒にいれるのかな、と淡い期待を抱く。
「じゃあ、とっておきの場所に連れて行ってあげる」
何か企むような声色に、思わず笑みを零す。
今日一日でいろいろな井上を知れた。
一生の思い出になる。
そっと目を瞑り、忘れないように深く記憶した。
「到着」
井上の声に有岬は目を覚ました。
いつの間にか眠っていたようで、有岬は目を擦る。
井上に手助けされながら車から降りると、有岬の目の前には光の海が広がっていた。
綺麗。
声には出せないが、思わずふるふると唇が震えた。
ライトアップされ始めていたシュシュジュエボックスもとても綺麗だったが、この夜景にはかなわない。
カラフルな光が混ざり、幻想的な色を醸し出している。
車から降りて少し歩くと、そこが小さな丘になっていることに気づいた。
「何かデートみたいだったな。…楽しかった?」
真っ赤に頬を染めた有岬が頷く。
そんな有岬に、井上は有岬と別れた時に購入したものを紙袋から取り出した。
「これな。俺と有岬でお揃い」
手渡されたのは、ブランシュのぬいぐるみのキーホルダー。
柔らかい感触に、有岬はそっとそれを指先で撫でた。
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