メリーゴーランド
「おいしい?」
こくりと頷く有岬に、井上は微笑む。
苺の乗ったかわいらしいショートケーキが少しずつ減っていく。
「有岬、少し頂戴」
丁度スプーンで掬ったところに声をかける。
すると有岬は少し迷ったようにしてからケーキの皿を井上の前に出した。
井上はそんな有岬をお構いなしに、スプーンを持った手を取って口に運んだ。
「本当だ。うまいな」
手を離してそう告げると、井上は笑う。
有岬は徐々に火照っていく顔を感じた。
間接キス…、と心の中で呟き、再度ケーキを口に運んだ。
「他のケーキも頼んでいいぞ?」
ふるふると首を横に振った有岬に井上はそろそろいくか、と告げた。
「何に乗りたい?」
“先生は乗りたいのある?”
「俺? ううん、特にはないかな」
“メリーゴーランド乗りたいな”
頷いた有岬に、井上は頭を撫でる。
それからパンフレットを片手で開いて見る。
一番近くにあるのはメリーゴーランドだ。
「お。近いね。行こう」
井上と有岬はメリーゴーランドへ向かう。
つないだ手が暖かくて有岬は井上を見上げた。
整った横顔、白い肌。
ミルクティ色の髪が揺れる。
「あ、ついたな。行っておいで」
“先生、乗らないの?”
「一緒に乗りたい?」
“乗りたいです、一緒に”
お願い、と目で訴えられて、井上は思わず笑う。
わかったよ、と頭を撫でもう一度手を繋いだ。
「ふたり乗りできますよ」
係員に告げられ、中にはいり、ファンシーな馬の背に有岬を抱き上げて乗せる。
それから自分も後ろに乗り、有岬を抱えた。
きゅっと軽く抱きしめる。
「結構高いな。ちゃんと掴まってろよ」
有岬が頷くのと同時に、メリーゴーランドは動き始めた。
綺麗な音楽と共に揺れる。
背中に井上の体温を感じた。
その体温に体を預ける。
急に体が火照ってきて、きゅんと胸が締め付けられた。
「有岬、見て。あそこに、グリとローズがいる」
井上が指を差した所に目を向けると、ブランシュの仲間の兎がいた。
灰色の耳と桃色の耳をした兎が手を振っている。
ローズはハートのポシェットを持っていて、グリは可愛らしい真っ白い兎を持っていた。
「手、振ってる」
井上の声に、有岬はグリとローズに大きく手を振った。
愛らしい2匹の兎に有岬は微笑んだ。
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