くるくる回る
「俺、ティーカップに乗るの初めて」
荷物をカップの内側に置きながら言うと、有岬も同じ、と頷いた。
そわそわとしている有岬を眺めてから辺りを見渡す。
カップルが多い。
「ティーパーティへようこそーっ」
係員の声が聞こえ、カップが動き出す。
周りがくるくると回すのに合わせ、井上と有岬もゆっくりと回し始めた。
「うわっ、目が回りそう」
井上の声に、有岬が笑ったのが見えた。
くるくる回るのが楽しいのか、一生懸命回している。
「うさ、有岬、やばい、俺が酔う」
井上がきゅっと有岬の手を握り、有岬ははっとした。
回す動作をゆっくりとして、井上を不安そうに見る。
大丈夫、と有岬の唇が動くのを見て、井上は頷いた。
「悪い。大丈夫。もっとまわしていいよ」
ふるふると首を横に振り、有岬はゆっくりと回した。
「有岬は大丈夫か?」
ティーカップから降り、有岬に問いかける。
くらくらと回る視界に、井上は有岬の手を取った。
ボードを腕で支え、文字を書くと、有岬は井上にそれを見せる。
“大丈夫。でも、少し休みたいかも…”
「そうだな。ちょうどレストラン街もあるし、そこに行こう」
“ありがとう”
近くにあったレストランに入る。
お洒落なレストランで、有岬はあたりを見渡した。
店員に案内され席に着くと、兎の耳を付けた店員がメニューとお冷を持ってくる。
メニューを開く。
「丁度昼だし、好きなの頼みな。今日は俺の奢りだから」
“そんな、悪いです”
「いいって。独身寮暮らしなめるなよ。ほら、何食べる?」
“あの、ブランシュ特製ビーフシチュー…”
「美味そうだな。…んー、俺はどうしようか」
井上が悩んでいるのを見て、有岬は微笑む。
おいしそうなメニューを眺めていると、井上がこちらを見た。
頼むのが決まったのか、ぺらぺらとデザートのページを開く。
「甘いの好き?」
“好き”
「じゃあ、ケーキセットも頼もう。俺も食べたいし」
そう言うと、井上は店員を呼んだ。
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