はいっ、うさちゃんっ
井上に手を引かれ、ジェットコースターに乗り込む。
係員に荷物とボードを預け、安全バーが下された。
きゅうっと有岬が手を握る。
その手の強さに、井上は有岬を見た。
「大丈夫か? まだ下りれる」
へいき、口がそう動き、有岬は微笑んだ。
機械の動く低い音が鳴り、ラパンジェットは動きだした。
頂点に登り切ると、園内が見渡せた。
余裕を持って落とされるらしい。
隣の有岬はあたりを見渡し、目を輝かせていた。
「あ、落ち…」
「…有岬、大丈夫か?」
係員から荷物を受け取りながら、有岬を見る。
有岬はふらふらしつつも、井上に笑いかけた。
鞄をかけ、ボードを渡すと、有岬が何かを書き始める。
「先生、すごく叫んでた…。はは、聞こえてた? 結構怖かったからな」
有岬が面白そうに笑みを浮かべるのを見て、井上も笑う。
その手をつかみ、次のアトラクションへ向かった。
次の行先は、コーヒーカップだ。
「あ、有岬っ。ブランシュ」
井上が急に指さして、有岬もそちらの方向を見た。
井上が指さしたそこには真っ白なふわふわでタキシードを着た兎が居る。
駆けだそうとした有岬を引きとめ、井上はゆっくり行こうとなだめた。
恥ずかしそうに俯く有岬の頭を撫でつつ、井上は有岬とともにブランシュのもとへ向かった。
女子高生が嬉しそうに写真を撮り合っている。
ブランシュは女子高生に挟まれていて、有岬は羨ましそうに眺めていた。
「有岬、あの子たちが終わったら、写真撮ってあげる」
“お願いしますっ、可愛いっ”
興奮しているのか、有岬が書く文字は少し荒れていた。
そんな様子も可愛らしい。
有岬から受け取った携帯と自分の携帯を取り出す。
女子高生が満足した様子でどこかに行くのを見て、井上は有岬の背中を押した。
「うわ、可愛いな」
有岬が嬉しそうにブランシュをきゅうっと抱きしめる。
抱きつかれたブランシュもうれしそうに有岬を抱きしめた。
写真、いいですか、と井上に問いかけられ、ブランシュはオッケーと丸を作った。
「有岬、笑って」
満足そうな笑みを浮かべた有岬と決めポーズをしているブランシュを、ふたつの携帯に収める。
楽しそうな有岬が笑うと、声をかけられた。
そちらへ向くと、きらきらと眩しいくらいの笑みを携えた係員がいる。
「写真、お撮りしましょうか?」
「あ、お願いします」
その男前な係員に携帯を渡し、有岬とブランシュを挟んで立つ。
「じゃあ撮りますよー…はいっ、うさちゃんっ」
可愛らしい掛け声に、井上も有岬も思わず笑った。
係員から携帯を受け取り、ブランシュに手を振って次へ向かう。
ほくほくと満足した様子の有岬に井上も満足した。
「有岬、次コーヒーカップだろ」
こくりと頷いた有岬に、井上はパンフレットを開いた。
もう少し歩いたところに目的地はあるらしい。
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