お気に入りのおもちゃ箱

数時間車を走らせたところで、目的地についた。
駐車場に車を止めた時、有岬が興奮したように窓ガラスに張り付いた。
そんな有岬に、井上は軽く笑みを浮かべる。
目に見えて嬉しそうな様子に、井上は先に車から降りた。
それから有岬の方のドアを開けて、車から降ろす。


「どう? 嬉しい?」

こくこくと頷いた有岬の頭を撫でる。
鞄から携帯を取り出して、写真を撮る有岬に、高校生らしい、と微笑んだ。


「撮れた?」

周に持たされたボードに撮れたと一言。
先生、ありがとう、とも書く。


「喜んでくれて良かった。ブランシュ、好きだろ? 鞄についてる」

“好き。…一度来たかったの。お出かけはあまりさせてくれないから”

「そっか。良かった。有岬が喜んでくれるところ連れてこれて」

有岬の鞄についた白いタキシードを着た大きい兎のぬいぐるみを手に取る。
それから、嬉しそうにボードに文字を書き込んでいく有岬に、井上は思わず笑った。


“ブランシュが一番好きだけど、ブルーもローズも好き。みんな好き”

「俺もブランシュ好きだよ」

“嬉しい、先生と好きなものが一緒なの”

「そう? よし、行くか」

シュシュジュエボックス。
直訳すると、お気に入りのおもちゃ箱な、遊園地は有岬の憧れの場所。
隣を歩く有岬に歩調を合せ、井上はファンシーな遊園地に向った。

携帯で購入した可愛らしいチケットを見せ、フリーパスを受け取る。
そっと有岬の手を取り、井上はフリーパスを一枚手渡した。


“お金、今出すから、待ってください”

「ん? いいよ。今度有岬の持ってる本貸して。それでチャラ」

“でも…”

「高校生が金の心配するな。ほら、手、貸して」

こてん、と首をかしげながら、有岬は手を出した。
井上はその手を取り、園内へ進んでいく。
繋がれた手に頬を赤く染めた有岬は、井上の隣へ急いだ。


「有岬、可愛い格好してるから、周りが男子高校生って気付きそうにないな」

井上の言葉に、有岬はなおさら頬を染める。
寮で読書をしているだろう周に心の中でありがとう、と叫んだ。
辺りを見回している井上をちらりと見る。
ウキウキとした様子は、どこか子供のように見えた。


「なに乗りたい?」

フリーパスと一緒に受け取ったパンフレットを広げ、有岬に見せる。
目に入ったのは、ラパンジェットの文字。
ここの名物のジェットコースターだ。
つい、と指を差す。


「ジェットコースター怖くない?」

大丈夫、と伝えようと頷く。
井上は乗りたい、と書いてある有岬の額を撫でた。


「じゃあ、行くか」
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