許可

周が迎えに来て、寮に帰った。
シャワーを浴びて、頭を乾かしてから、夕食を食べる。
周が作る食事は、体の弱い有岬に合わせたものだ。
食事を終え、共同ルームでゆっくりしている。
そんな、穏やかな時間。
有岬は急に周の前に正座した。


“今度の土曜日”

何、と続きを促すと、有岬はおずおずと続けた。
有岬の話す内容を聞いているうちに、周の眉間に皺が寄っていく。


“駄目? 先生とお出かけ行くの…”

眉間に皺が寄って怖い顔をしている周に、有岬は頭を下げそうになった。
大事に大事に周に守られてきた有岬が、滅多に行かないお出かけに行こうとしている。
しかも、彼が恋焦がれている男と。
周はどうしたものか、と眉間をもみほぐしながら、溜息をついた。


「俺は、いいんだけど」

“駄目…?”

「夜月さんは…」

“これからメールする。…一生のお願い、周からもお兄ちゃんに頼んで”

お願い、と周の手を握って、訴える。
うるうるとした瞳は、今にも零れ落ちそうだ。
もう一度深い溜息をつき、周は仕方がないな、と呟いた。
苦笑しつつ、今にも泣き出しそうだった有岬の頬を撫でる。
柔らかな感触が心地よい。


「…その代り」

“かわり…?”

「ちゃんとあったかい格好をすること。発作止めのメプチンとブランケットも」

周の言葉に、有岬は大きく頷いた。
ありがとう、というように、ぎゅうぎゅうと抱きついてくる。
可愛らしい行為に、周は有岬の背中をぽんぽんと軽く撫でた。


「あと、井上にちゃんと薬の使い方教えておくんだぞ」

“うん”

「まあ、夜月さんがいいって言ったらの話だけどな」

苦笑する周に、有岬も同じように苦い笑みを浮かべた。
携帯を取り出し電話をかけ始めた周に、有岬も周の耳元に近づく。


「夜月さん、こんばんは」

『どうした? こんな遅くに…まさか!』 

「違いますよ。あの、お願いがあるんですが」

『ああ、有岬の外出のことか?』

一瞬、ふたりの動きが止まった。
駄目かな…としょんぼりする有岬に、周は宥める様に頭を撫でる。
そんなことも露知らず、電話先で夜月が笑った。


『有岬が周に頼んだんだろう?』

「ご察しの通りです。駄目ですか?」

隣の有岬がせわしなく、動いている。
そんな有岬に笑いながら、返事を待っていると、返事はあっさり返ってきた。


『構わないよ。風邪ひかないように準備していくならね』

「え?」

良い返事である。
良い返事なのだが、あやしい。
周が黙っていると有岬が不安になったのか、どうしたの、だめなの、と手をせわしなく動かし始めた。
忙しいから切る、と夜月の声を聞き、周も携帯をたたんだ。


「いいって」

“本当に?”

「ああ。本当だよ」

“うそ…”

「本当だって」

信じられない、とでも言うように、有岬はぽかん、と口を開けていた。
その口を閉じさせて、良かったな、と呟く。


「もう遅い。寝よう」

“一緒に寝ていい?”

「いいよ。最近はずっと一緒だろ」

ベッドの中に有岬を入れ、周は有岬を軽く抱きしめた。
小さな体が興奮を抑えられないのか、忙しなく動く。


「うさ、体調崩したらいけなくなるぞ。お前、早く寝ないとすぐに風邪をひくんだから」

“うん、おやすみ”

寝よう、と目を瞑った有岬に、周も同じように眠りへ足を運んだ。
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