知りたがりな、弱い人

『周…教えてくれるだろう』

有無を言わせない口振り。
夜月の悪い癖だ。
誰も寄せ付けない、冷たい話し方。
鋭い目つき。
顔立ちは美しく、誰もが羨望の眼差しを向けるだろう。
それなのに夜月に近づく人間は誰もいない。
哀しいくらい、冷たい人間だから。

夜月の冷たい視線を思い浮かべながら、口を開いた。


「先生は、俺とうさのクラスの副担です」

『他は』

「化学専攻」

『そういうことを聞いてるんじゃないって分かっているだろう』

苛立った夜月の声が聞こえ、周は彼に聞こえるようなため息をついた。
他人のことを話すことは嫌いだ。
ましてや、有岬が恋い焦がれている人物。
周のため息に、夜月のため息が返ってきた。


「うさが図書室にいる時、本を探しに来たそうです。それから意気投合して…」

『体育の時間と放課後にあっている…と?』

「はい。…先生は、とてもいい教師ですよ」

『良い教師だとしても、いい人間だとは分からない。…来週にでも会ってみる』

くすくすと笑う声。
低い声は、どこか少しだけ寂しそうに聞こえてくる。


「…そこまで必要ですか…?」

『やりすぎなことは知ってる。だが、これは必要なことなんだ』

「でも…」

『有岬に近づく人間は全員…』

夜月が黙る。
その沈黙は、重くて周の呼吸を荒くさせた。


『…周、君だけが頼りなんだ』

その声に、そっとまぶたを閉じる。
低く、心地よい声。
不安そうな、寂しそうな…。
この人が、不意をついて漏らす、人間らしい弱い声。


「わかってます」

小さく頷き、返事を返す。

こんこん、と部屋の戸がノックされる。
有岬がシャワーを浴び終えたようだ。


「…有岬が戻ってきたので、電話切ります」

そう告げ、答えを聞かず電話を切った。



“誰?”

「親戚」

“そっか”

周が掛け布団をめくっていると、有岬もベッドに入ってくる。
小動物のような仕草に軽く笑った。


“一緒に寝ていい?”

「もう布団に入っているだろ? …うさはいつまでも甘えただな」

周の腕に頭を置いた有岬は、うとうととしている。
もう眠りにつき始めた有岬に小さく謝った。
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