心配症

体がだるい。
昨日夜中まで読書をしていたせいだ。
つい最近までは控えていたのだが、いやな心持ちになってしまうため、読書をして気分を晴らすのが日課になり始めている。

―…一度寮に戻ろう。

周は一度頷いて、寮へ引き返した。



「ん…。5時…」

いつの間にか眠っていたようだ。
時計を見て、うっかりしていたと軽く唇を噛む。
有岬を迎えに行く時間がとっくに過ぎていた。
睨みつけるように見た時計の日付を見る。

―…ああ、あの人がきてるから…、今日は、いいのか。

ほっとため息をついて、玄関から聞こえてくる音に、周はそちらへ向かった。
勘違いをしてしまうほど疲れているのかと、もう一度深いため息をつきながら。


「お帰り。…どうだった?」

“疲れた”

聞くまでもない。
有岬が疲れたと表現するようにぐだりと周に寄り掛かってきた。
だっこ、と聞こえてきそうなくらい、有岬の体からは力が抜けている。
苦笑しつつも有岬を抱き上げて部屋に入る。
ベッドに下ろされるなり、ゆっくりと手を動かした。


“心配性のお兄ちゃんを持つと、大変”

「はは…、夜月さんは有岬のことが大好きなんだよ」

“うれしくないーっ”

そう言いつつも嬉しそうに微笑む有岬に周は思わず笑った。
小さな幼馴染は、文句を言いながらも年の離れた兄のことが、とても大好きなのだ。


「夕飯は?」

“お兄ちゃんと行ってきた。周も来ればいいのにって言ってたよ”

「俺はいいよ。夜月さん、俺がいると気を張るだろ?」

“そうかなぁ”

「そうだよ。…ほら、風呂入ってさっさと寝な。疲れたんだろ?」

頷いた有岬は周からバスタオルを受け取り、シャワー室へ向かった。


有岬の後ろ姿が見えなくなったとき、タイミングを計ったように携帯が音を立てる。
静かなピアノの音色が聞こえてきて周はため息が零れた。


「…どうしましたか」

『不機嫌そうだ』

「もう少しタイミングが遅かったら…」

『あの子は少し頭が悪いから分からない』

ぼすん、とベッドに横たわる。
電話の向こうからくすくすと笑う声が聞こえてきて、周は小さくため息をついた。
電話先に聞こえていたのか、笑い声が大きくなる。


『あの子が言わなかったことを聞こうと思って』

「心配症の兄を持つと弟は大変ですね」

『それは、あの子のセリフか』

「そうですよ。…今日は何が知りたいんですか?」

『ああ、ありがとう。今日は有岬が仲良くしてもらっている先生の話が聞きたい』

やっぱり、そのことか。
もう一度、今度は聞こえないように、ため息をついた。
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