3月。この月といえば卒業。俺は1年だからまだ先だけど、あの先輩は卒業してしまう。いつも特訓に付き合ってくれた先輩。お弁当を作ってきてくれてたなあ。おいしいんだけど、玉子焼きはいつも焦げてたっけ。勉強も教えてくれたなあ。でも、昔のことはもう忘れたさ。とかカッコよく言われたけど。

「…今日でもう、会えないのか…。」
「おっ!少年みーっけ!」
「!?」

聞き慣れた声。そして俺を少年と呼ぶのはあの人だけ。勢いよく振り返れば、さっきまで考えていた先輩が、俺のところまで走ってきた。………のだけど。

「せっ、せせせ先輩っ!なんですかその格好はっ!!」
「え?ああ、だってさースカート走りにくいじゃん?だから。」

短くして横で掴んでたの。そう言って先輩は横で乱暴に掴んでいたスカートを放した。笑いながら言ってるところから周りの目を気にしてはいないようだ。この人はいつもそうだ。俺達の想像の斜め上をいく。本人はこれが普通だと思っているみたいだけど。

「先輩、お、女の子なんですから、あの……も、もうちょっと、」
「女の子らしくしろと?」
「…はい。」

だんだん恥ずかしくなって俯きながら言ってしまったけど、先輩は聞こえていたらしい。顔が熱い。

「でも私が女の子らしかったら世界が終わりそう。」
「そっ、そんなことないですっ!!先輩は、十分可愛いんですから、その…。」

そうかそうか、お世辞でもありがとな。俺の頭に手を乗せ、笑いながら言った。身長は先輩の方が高い。カッコ悪いな、俺。

「お世辞じゃありません!本当ですよっ!」
「可愛いなあ、少年。」
「ちょっ、話聞いてますっ!?」
「こんな弟、欲しかったな…。」
「え…。」

目を伏せて言った先輩の顔は少し寂しそうで、いつもの先輩からは想像も出来なかった。そんな先輩の新たな表情を見て少しドキっとした。あと、睫毛長いな、とか思ったり。

「だからさ、少年。私の弟にならないか?」
「え、ええええええええっ!!」
「冗談だよ、冗談。ほんと可愛いな!」

じゃ、もう行くね。いつもみたいに楽しそうに笑ったあと、手をひらひらさせながら来た道を戻っていく。

「せ…先輩っ!!」
「…?」
「お、俺!先輩の弟よりもっ、あなたの…男になりたいですっ!!」

何言ってるんだろう。自分でもわかってるけど、言わなきゃいけない気がして、数メートル先にいる先輩の背中に向かって大きめな声で言った。歩を止めてこちらを向く先輩はほんの一瞬だけ驚いたあと、優しく笑った。

「…少年が、少年を卒業するまで待ってる。」
「!?それって…!」
「あと2年、待ってるからな」
「はいっ!!」

またね。そう言ってゆっくりと歩き出した。けど、歩いているのに、なぜかスカートを横で乱暴に掴んでいる。そんなに掴んでいると皺になりますよ。言ってあげたかったけど心の中にとどめておいた。それにしても顔が熱い。顔だけじゃない。身体中が熱い。目頭だって熱い。こんなはずじゃなかったのにな。俺は制服のズボンを横で強く掴んだ。

110327

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テーマ「人外ファンタジー」
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