!学パロ




「なに怒ってんの、南雲」

数十メートルぐらい先で歩いてるあいつに向かって声を張り上げた。俺の声に気付いたあいつは、歩を止めてゆっくりと振り返る。追いついた俺は乱れた息を整えながら自分でもわかるぐらいに低い声で名前を呼んだ。あいつは、少し目を伏せて悲しそうな顔になりながらも、どこか楽しそうに言ってきた。けれどその言葉は俺にとって、更に苛立ちを募らせるものでしかない。

「…アンタ、なんで上履きなんだ」
「………あー、間違えちゃった」
「嘘つくなよ!」
「嘘じゃない」
「じゃあこの泥だらけの靴はなんなんだよ!」

泥だらけで所々鋭いもので切られた靴を前に突き出す。ここにあるのが不思議なのか、目を大きく見開いて靴を見た後、私のじゃないと言ってきた。

「アンタのだろ」
「…そんな靴、見たこともないね」
「とぼけんな、俺、アンタの靴は珍しいなって思ったから覚えてたんだよ」
「へえ、でも他の人かもよ」
「いや、見つけた時にアンタの名前が靴の内側にあった」
「………誰かが書いたんだね」
「……………」
「……………」

自分のだと言わない事にますます苛立った。そこまでして隠したい事なのかよ。「どうして構うの、」?

「私の事なんて放っておけばいいのに、どうして構うのさ」
「…好きな人だから、助けたいから」
「そんなの嘘、綺麗事言わないで」
「嘘じゃねえよ!俺は本気なんだよ!」
「そんな言葉、信じらんない!どうせ興味本位でしょ?聞くだけ聞いといて助けてくれない」
「違う」
「南雲も一緒ね、世の中と」
「違う、」
「何でも知っていたい、人の秘密を握っていたい、ってね。たくさんいるんだよ、こういう人達」
「違う!俺はそんなんじゃっ、」
「そうやって言ってくる人も世の中にはたくさんいるんだよ」
「なんで、なんでそんなに信じねえんだよ!」
「…別に人間不信ってわけじゃないからね」
「じゃあなんで!」
「経験、かな」

その時微笑んだあいつは、今までより一番綺麗に、尚且つやわらかく微笑んだ。ああ、もう、誰もあいつを助けられないと思う。


100803
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -