耳元でなにかの衝撃を感じたあたしは目を覚ました。例えるならばそうだな…分厚い本を何冊かまとめて一気に枕元に落とされたような感じ。わかりにくい。不快に眉を寄せながらゆっくりと目を開く。…視界に入ったのは『広辞苑』の文字。あたしはさっきの例えがあながち間違っていなかったことを知る。何冊か、ではなく一冊ではあるが。あとなんセンチかずれていたらこれ頭にあたっていた気がする。だれがこんなことを…あたしはもそもそと上半身を起こした。



「朝」
「…もうちょっとだけソフトに起こしてほしかったなー…」



起こしてくれるのは素直にありがたいけど…。そこにいたのは学生服に身を包み、真っ赤な髪のあたしがよく知る男の子だった。晴矢である。寝癖なのかそれともオシャレなのかよくわからない髪型だなと双子ながらに思う。あ、晴矢には内緒だよ。それにしても起きるのが早くはないだろうか。もしかしてもうアラーム鳴っちゃったのかな、と首を傾げる。枕元に置いている携帯を開いて現在の時刻を確認すれば、…アラームが鳴る予定の時間よりもずっと早い時間だった。おおぉ…よくこんな時間に起きれたな、晴矢。感心。パジャマから制服に着替えるから晴矢を一度、部屋から追い出す。丁寧にアイロンがあてられた真っ白なシャツに袖を通して、欠伸。眠気と必死に闘いながらパジャマから制服に着替えていく。ボタンを1つとめるのにいつもより少し時間がかかってしまった。机の上にあった宿題が目に入ったので忘れないようにカバンに入れておく。「まだかよ」「あ、もう大丈夫」がちゃり、あたしが言い終わるよりも早く再び部屋に入ってきた晴矢は学生カバンを手に持っていた。自室からとってきたらしい。



「ほら、早く下いくぞ」
「え、もう行くの?」



まだリボンを付けていないあたしを引きずりながらリビングに向かう晴矢。まだ完全に目が覚めていないのかもしれない。足がもつれてしまいそうになる。彼もまだ眠いのかふらふらしている気がした。まだ時間はあるのだから寝ればいいのに。自分はしっかりと制服を着ている。実に珍しい。



2人揃ってリビングに顔をだして、あたし達のお弁当を作ってくれているお母さんに「おはよ」と声をかける。お母さんはちょっと驚いたように顔をあげた。次に、わたしと晴矢を見ると大きく目を開かせる。そんなに驚くことなのかな。晴矢の早起きは珍しいけど。(あたしの早起きも珍しかったりする)あ、お母さんお母さん手がとまってるよ。



「早いな」
「でしょ」



でもあたしはまだ寝てたかったんだよ、口にはださなかった。が、心の中でそう呟きながら苦笑する。…ふわあ…。欠伸が漏れる。欠伸をしたから目にじわりと涙が溜まった。うっすらとぼやけている視界の端っこで、晴矢は食パンをトースターの中にいれようとしていた。「晴矢、あたしのもお願いね」「…おお」元気がないのは眠いからかな。まだ時間はあるのだからギリギリまで寝ればいいのに(2回目)シンクに使ったばかりだと思われる食器があった。お父さんはもう仕事に行ったみたい。食パンの焼ける香ばしいにおいがリビングに広がる。いますぐにでもぐぅとお腹が鳴ってしまいそうだ。チーン、トースターが鳴ると同時に2枚の食パンがひょっこりと顔をだした。…ん?2枚?



「晴矢、あたしの分も頼んだじゃん」
「…だから2枚焼いたんだろ」



2つのお皿に1枚ずつのせられるトースト。いつもなら晴矢のお皿には2枚のるはずなのに、変なの。食欲ないのかな。不思議に思いながらも晴矢にお礼を言って椅子に座る。テーブルの上に置かれたそれを持って一口かじる。さくっといい音がした。ふと顔を上げれば晴矢はトーストを見つめたまま、いっこうに食べようとしない。どうかしたのかと聞いてみた。



「…食欲ねぇ」
「え」



まさか。返ってきた言葉に驚いてあたしは手に持ったままだったトーストをお皿に落とした。






20100908.黔



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