この春、ついにわたしも大学生となった。そして念願の一人暮らし。あまり綺麗とは言えないアパートだけれど不自由はない。大家さんは優しいし、このアパートに住んでる方々は面白いし優しいし。家賃だってわたしのバイトの給料を少し削ればなんとかなる。(有難い事にたまに親から仕送りがくる。)ここ選んでよかった。「なまえちゃん、おかえり!」「大家さん、ただいま。」「バイト大変でしょう?」「そうでもないですよ、ここから近いですし。」「でも無理はしないでね。」「はい、ありがとうございます。」「あ、さっきお買いものに行ったとき、きゅうりを買いすぎちゃったの。よかったら持って行って。」「こ、こんなに…ありがとうございます!」大家さん本当にいい人だなあ。今度お礼しなきゃ。そしてこのきゅうりは早速漬け物にしよう。そう考えただけで足取りが軽くなった。
自分の番号の前まで来て鍵穴に鍵を通す。開いた音がした後、ドアノブに手を掛けて回す。自分の方へ引いて、ただいま、と誰もいない空間に言う。「誰だ。」が、なぜか返事が返ってきた。これはおかしい。わたしは一人暮らしだ。誰かいるわけがない。親だったら靴があるはず。けど玄関にはわたしの靴しかない。それに、実の娘に対して誰だ、なんて言うはずがない。これはもしかすると泥棒とかなんだろうか。ならば早く警察に通報しなければ。でも、顔ぐらい見てからにしよう。好奇心とは恐ろしいものだ。電気を点けて辺りを明るくする。ポケットから携帯を取り出して開いた状態にしたまま両手で強く握りしめた。ゆっくり、ゆっくりと、声がしたであろう場所へ向かう。手の汗が凄い。携帯が手の汗で気持ち悪くなっている。「誰か、いるの…?」恐る恐る見えない人物へと声をかけた。自分でもびっくりするほど声が震えていた。速まる心臓の音。呼吸がさっきよりも乱れている。「貴様、誰だ。」突然目の前に現れた人物に心臓、呼吸、あらゆる機能が一瞬、止まった。


100710

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