ばれんたいんでー。(一土or土一)


――――ばれんたいんでー


ふとカレンダーを見て、気がついた。

「明日バレンタインじゃん」

大切な人にチョコとかをあげる日、だよな。
そして、チョコと一緒に告白する女子がいたりなんかもして、カップルが成立しやすいのかもしれない日。
…カップルかぁ。俺には無縁の話だな。
だって、俺が好きなのは、

「…一之瀬、モテそう」

…え、これ、俺、ピンチ?
そうだよな、一之瀬だって男だ。
彼女ができたっておかしくない。
果たして俺は、一之瀬に彼女ができたときに祝福できるのか……できないよなぁ…。
かといって俺がチョコあげても気持ち悪いだろうしなぁ…うーん…

「素直にあきらめるか…。」



次の日、つまり、バレンタインデーの朝、俺は一之瀬の背中を玄関でみつけた。

「おはよう一之瀬」
「うわっ!!あ、土門、おはよう」

一之瀬はなんだかあわてたように、ごめん俺急ぐから!なんていって、走っていってしまった。
少し話とか、したかったのに、なんて。
あ、まさか、…呼び出し?

『一之瀬先輩、あの、…よかったら、これ!』
『…?チョコ?…ありがとう』
にこり、そして抱きつく女の子!!
一之瀬も優しく抱きしめ返す!!

…何考えてるんだ俺。深く自己嫌悪。
まさか、そんなわけないだろ!
それに、…仮にそうでも、俺は祝福するって決めたんだ。一之瀬のためにも。

ため息をついて、下駄箱に手をかける。
…あれ?なんだこの紙。手紙?

『昼休み、屋上で待ってます』

名前も何もない。なんだこれ。
…まさか、誰かが俺に告白してくるとか!?

「なんて、あるわけねーよな。」

入れ間違いかなんかかな?
とりあえず、行くだけいってみようなんて考えながら、俺は靴をはきかえて教室へ向かった。



そして、昼休みがきた。
昼飯のパンを手に持って、俺は屋上に向かう。
誰がいるのか、もしかしたら誰もいないっていういたずらかもしれないけど。
階段を上がりながら、もし一之瀬に彼女ができたら、俺も作ろうかな、なんて、ふと思った。
そしたら忘れられるかな、なんて。

がちゃり、ぎぃぃ
さび付いた音を立てて、扉が開く。
まぶしさに視界を奪われて一瞬何も見えなかったが、徐々に目が慣れるにつれて、誰かがいるのが見えてくる。

「……一之瀬?」

そいつは、びくりとして、それからおそるおそる振り返った。

「きて、くれたんだ」
「…あの手紙、一之瀬が?」

そうきくと、途端に一之瀬は視線をずらして、なにかごにょごにょと言う。
正直、聞こえないけど、そんなことより、…かわいい。

「で、どしたの?俺を呼び出すなんてさ。」
「その…あの…」

なかなか切り出さない一之瀬。
雪こそないが、少し寒い風が吹く。
俺はいいけど、一之瀬が風邪をひかないか不安だ。
なんて考えていたら。

「土門、これ」

一之瀬が、下を向いたまま、俺に袋を突き出す。

「え?」

受け取って、中を見る。
チョコレートだ。
…いや、まさか。

「…あー、いっぱいもらったからお裾分け、みたいな?」
「っ、そうじゃなくて!」

…そんなはずがない。

「じゃあなんだよ?あ、俺がもらえないだろうからって?」
「違う!…そうじゃなくて、」

一之瀬が俺にわざわざくれるなんて、そんなはずは…

「土門にだよ」

手が、ふるえる。
声が、でない。

「土門が、好きだ」

…すき?
一之瀬が、俺を?

「男から好かれるなんて、気持ち悪いかも知んないし、ひくかもしんないけど、でも俺は」
「…まじで?」

思考が停止したみたいで、一之瀬が何を言ってるのかよくわかんなくなってきて、でも、とりあえず、ひとつだけはっきりしてる。

「…土門?…ごめん、やっぱり気持ち悪」
「ぃぃいちのせえぇぇっ」

なんか泣きそうで、嬉しくて、そんな顔見られたくなくて、俺は思わず一之瀬を抱きしめた。
いや、一之瀬に抱きついた、かな?
胸元で、うわ、ってこえが聞こえた。

「土門」
「一之瀬」

呼ぶ声が重なり、ちょっと間をおいて、一之瀬が土門からいえよ、という。

「…一之瀬、」
「なに?」
「…俺もすき」
「おう」

なんか、無性に恥ずかしくなってお互いちょっと離れて背中向けてみたり。
そんで、一之瀬はなんだったんだよ?ときいてみる。

「…呼びたかったんだ」

思わず振り返った。
体育座りの膝に顔を埋めてる一之瀬が愛しくて。
何となく横に並んで寝転がってみる。
そんで、思い出して、一之瀬からのチョコをあけて、ひとつを口にはこぶ。

「あ、これうまい」
「…よかった」

そういえば。

「ごめん、一之瀬。俺、何にも用意してない…」

一之瀬は顔を上げると、えー、といって口をとがらせる。
一之瀬からもらったのをもう一つ自分の口に入れてから、これ、食う?って袋を一之瀬に差し出したら。
一之瀬の手が近づいたと思ったらふっと視界が暗くなって、唇に何か柔らかいものが……………え?
視界が開ける、固まる俺。
え、今のって、

「い、いいいい一之瀬?」

一之瀬は俺に背中を向けている。
…耳が真っ赤だ。
きっと、俺の顔も負けないくらい真っ赤だろう、なんて。


関係ないと思っていたバレンタインデーは、今日からとても大切な日になりました。


「土門、」「一之瀬、」
「「大好きだ」」


―END

[mokuji]



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