エール(みやばき)

『みやちゃんは、』
「ん?」
『俺がいなくなったら寂しい?』
電話越しに聞く声はなんだかいつもと違って聞こえて、椿がどんな気持ちで言ってるのかが全然わからなかった。
「ねぇ椿、今どこにいんの」
『え……秘密』
「外?」
風の音がしたから、外かなぁと思った。
椿も空見てんのかな、俺も同じ空を見たら考えてることわかるのかな。
そう思って、話をしながら窓の鍵を開けた。
『っ!?みやちゃんなにしてんの!?』
途端に電話から慌てた声が聞こえた。
「何って、窓あけようと」
『だめっ!!』
窓越しに、電話越しに、よく知った声がして。
まさかって窓を開けたら、窓の下に、よく知った顔があった。
「……なにやってんの」
「……え、えへ」
どちらともなく顔を見合わせて笑いだす。
こんな近距離で何やってんだろ、俺たち。
……この距離でいられる時間もそんな長くないのに、何やってんだろ、ほんと。
そう思ったらなんだか寂しくなって、思わず唇をかんだ。
「みやちゃん?」
「……」
「……やっぱり、みやちゃん寂しい?」
「……」
寂しい、って言うのは簡単だけど、でも、どうしてそんなことが言えるだろう。
俺は椿の門出を祝わなきゃいけないのに。
椿が自信をもって行けるように。
だから。
「俺だって、」
「、え?」
「椿がいない間、俺だってもっとうまくなってみせるから」
顔をあげて、ニッと笑ってみせる。
椿はキョトンとして、それから一瞬顔を歪ませて、それから笑顔を見せてくれた。
「楽しみだな、戻ってくるの」
「何それ、まだ行ってもいないのに」
「あはは、ちょっとはやまったかも」
窓越しに手を伸ばして、椿の髪に触れる。
今は窓越しが精一杯だけど、いつかきっと一緒に窓の外の世界に立ちたい。
寂しいなんて言ってられない。
窓枠を越えるだけの努力をしなきゃいけないんだ。
「みやちゃん、くすぐったいよ」
「あ、ごめん」
窓越しの君に言えない言葉もきっと隣に並ぶときには言えると思うから。
「椿、」
「ん?」
「お互い、頑張ろうな」
「……!うん!」
パンッとひとつハイタッチ。
君へのエール、俺へのエール。
自信をもって進めるように。

END

[mokuji]



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