好きです。(ジノバキ)

最近すごく眠たい。
そう思いながら何の気なしにカレンダーを見て、思わず苦笑した。
練習の日、遊ぶ予定に、出掛ける予定。
ゆっくり過ごした日って、どうやらあんまりないらしい。
今日だってそう、ご飯食べて、話して、こんな時間。
そりゃあ眠たいわけだ。
明日は予定ないし、ゆっくり寝ようかな……。

〜♪

突然携帯が着信を告げて、驚いて投げ捨てそうになった。
誰だ?……王子?
「もっ、もしもし?」
「やあバッキー、明日暇かい?」
暇だよね? と言わんばかりの声。
……なんか、イライラしてる?
なんて思っても言えるはずなくて。
「一応予定はないですけど……」
「じゃあ明日、―――」
何時に、どこで、と淡々と告げる王子に、やっぱりなんか変だなって思って。
「バッキー?聞いてる?」
「あの、王子」
「、なに?」
やっぱり王子は不機嫌みたい、遮ってしまったことで、明らかに声が低くなる。
「……今からは、会えませんか」
「っ、は?」
思わず言った言葉に、王子がらしくないすっとんきょうな声を出す。
「あ、いや、あの、迷惑ならすいません、もう時間も遅いし、その……すいません」
「いや、明日は何もないから良いけど?」
どうしたの?と言いたげな声。
「バッキーからそんなこと言うなんて、珍しいね」
「いや、その……」
「いいよ、どこにしようか」



「あの、ほんと、遅くにすんませんっ」
「大丈夫だって」
結局場所は決まらず、王子の車に乗せてもらう。
隣の王子は余裕の表情で、俺からお願いしたはずなのに俺は心臓がドキドキしていて。
何を話せばいいんだろう。
どうしたらいいんだろう。
そんなことを考えてたら、す、と隣からペットボトルを差し出された。
「え、」
「暑いでしょ」
「あ、えと、」
小さな声でありがとうございますと言うと、王子が笑った気がした。
「最近忙しかったんでしょ?」
「あー……まあ……」
「いろんな人と遊んでるみたいで」
その言い方がなんだかトゲがあるように感じて。
やっぱりイライラさせちゃってるのかなぁ、って。
でもきっと謝るのも逆効果かなって思ったから、何もできなくなって。
「う……」
「バッキーは、誰の犬?」
真剣な声に王子の方を見ると、思ったよりも近い距離に思わず息を飲む。
長い睫毛。綺麗な瞳。
「……お、王子の、ッス」
絞り出した声に、王子の瞳が緩んだ。
「まあ、」
吐息の混ざったような声に、心臓が跳ねる。
「わかってるならいいんだけど」
「……ッス」
王子のスラリとした手が伸びてきて、優しく首筋を撫でられる。
細められた目が優しくなったようで。
「首輪でもつけておいた方がいいのかな」
「っ、え?」
「だってバッキーはいろんな人のところに行くじゃない?きちんと帰ってくるように、ね?」
「そんなのなくたって、」
思わず大きくなる声、王子も自分もびくりとする。
そんな俺を見て、王子がくすりと笑った。
「そ、そんなのなくたって俺は王子のところに帰ってきます」
「そう?……心配だなぁ」
長い睫毛の目が細められて、いたずらに笑う王子。
それが本心かなんてわからないけど、でもさっきまでの不機嫌は絶対にそれが理由だから。
思わず俺は身を乗り出して、その頬にキスをしていた。
「……これなら、信じてもらえますか」
見開かれた目、半開きの口。
一分にも一秒にも思われる時間。
鼓動が聞こえてしまうんじゃないかと思うくらいの静寂。
それから、王子は小さい声で囁くように「まったく」と言った。
それから、そっと目の上に手が当てられて、視界が塞がれる。
「王子、?」
「君はどうしてこう、僕を嬉しくさせるのが巧いんだろうね」
視界の先の王子の表情はわからないけど、嬉しい、って言われてなんとなく自分も嬉しくなる。
「バッキー」
「はい?」
「そんなこと言うなら、もう離してやらないよ?」
頷くことも、声を出すこともできないまま、王子の唇が俺の唇に優しく触れる。
いつのまにか手は離されていたけど、目を閉じているから視界は変わらなくて。
でも、きっと。
……王子も同じように思っててくれたらいいな。


END




7月椿月間に全然かかなかったからね……orz

[mokuji]



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