あいらぶゆー sideD(一之瀬と土門)


――――あいらぶゆー side D


俺は、病院が好きじゃない。
注射とか嫌いだし、薬も嫌い。
できれば一生関わりたくない。
そんな俺がなぜ病院にいるのかというと、

「土門ー、暇なんだけど、なんかないの?」
「昨日本持ってきてやったじゃねーか、一之瀬」
「もう読んじゃったんだよ!新しいのなんかないの?」

大事なチームメイト、一之瀬が入院してるから。
…嘘ではない。
大事だし、チームメイトだし。
一之瀬が倒れたなんて聞いたときは俺まで倒れそうになった。
ただの疲労だって聞いたときはどれだけ安心したことか…。

「しっかしなー。お前、無理しすぎて倒れるなんて、」
「それ昨日も言ったって」

あは、と笑ってつっこむ一之瀬。
すごく元気そうで、この笑顔を見ると一番安心する。
そして、とても癒される。

「早く元気になって、サッカーしたいな…」
「待っててやるから早く来いよ」
「あぁ!いつまでも土門に心配かけるわけにいかないしな!」

別に毎日見舞いにこなくたっていいんだよ?
そういって一之瀬は笑う。

「そんなこと言ったって、心配なもんは心配なんだよ」

そういうと、一之瀬はうつむいて、布団を握りしめた手を見る。
俺、まずいこと言ったか?
少し心配になった俺の目に、一之瀬の口が開かれたのが見えた。

「なんか、恋人みたい」

………こいつは、今、なんと?

「…は!?」
「なーんて言ってみたりして、あはは」

顔を上げて笑う一之瀬。
自分の後ろ髪をわしゃわしゃとしながら、そのきれいな顔で笑うもんだから、俺はもうみてらんなくて、

「馬鹿か。帰るからな!」

荷物を鷲掴みにして、早足で病室を出る。
膝が笑ってる。
病室の外にはちょうどイスがあって、俺は倒れるように座り込んだ。

…焦った。
俺の気持ちがばれてるとかそんなまさかってすごく焦った。
だって、男同士だぜ?ないだろ。
すごく今、鏡を見たい。
顔赤くなってないだろうか。
あぁ、だめだ、鏡は見たくない。
きっとすごく情けない顔をしている。

一之瀬はサッカーの才能だってすごくあるし、もてそうだし。
ずっと、そんな一之瀬が憧れだった。
でも、今は、…とても大事な人だ。
絶対に失いたくない。
きっと俺の気持ちを伝えたら、一之瀬はもう俺に近寄ってはくれないだろう。
失うくらいなら、伝えない。
今までもそうやってきた。
これからも、きっと、この気持ちは伝えることができないだろう。

「一之瀬、――――――」


END

[mokuji]



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