今日だけ君の猫になる。(松野と半田)

昼休み。
「うわ!なんか猫がマックスの帽子かぶってるんだけど!」
誰かが驚きの声をあげたのが聞こえた。
なんだよ、朝から学校サボりかと思ったら猫ひろってんのかよ。
そう思いながら見に行くと。
そこにいたのは、
「えぇぇぇぇぇぇぇ!?」


――――今日だけ君の猫になる。


行きなり叫んだ俺に、みんなが不振そうな目で振り返る。
「あ、いや、あの、すいませんっ!」
注目を浴びるのは慣れてないもんだから、俺は思わず猫を抱えあげると部室の影に移動した。


「ま、松野か?」
我ながら、バカな質問だとは思う。
でも、この猫は松野であるような気がしてならなかった。
だって、松野みたいな大きな目、松野みたいなオレンジの髪、松野みたいな可愛らしさ。
これは絶対松野だろ?
「……なぅ?」
猫が真ん丸い目でこっちを見つめて、首をかしげる。
恐る恐る手を差し出して帽子の上から頭を撫でると、猫は目を細めて気持ち良さそうな顔をした。
「松野なんだな?」
「んなっ」
「やっぱりか!」
なんだか猫が返事をしてくれたようで。
俺は猫を撫でるのをやめて、その隣に寝転がった。
ブルブルと首を振って帽子を落とすと、猫も肩の辺りに丸くなる。
「松野ー、何でお前、猫になっちゃったの?」
「んな?」
「猫語じゃわかんねーよ」
「うー」
「朝からずっと猫なの?」
「なぅ」
「そっかー」
「なーぅ。んなー」
「え、なに、わかんないんだけど」
「うー!んなー!」
なんだか、猫と真剣に話をしている自分が面白くなってきて。
いつのまにか俺は笑い出していた。
隣を見ると、キョトンとした目でこっちを見ている猫。
「なんでもねーよ」
笑いながら頭を撫でる。
猫は、気持ち良さそうにゴロゴロとのどをならしている。
このまま午後の授業もここにいようかな、松野と一緒にサボるのも悪くないかも。
そう思ったとき。

「あ、いたいた」

……え?
こっちに歩いてくるオレンジの頭。
あれ、え、え?
隣の猫とその人影を見比べる。
だって、帽子はないけど、あれはどう見たって、
「……松野?」
「何すっとんきょうな声だしてんの、半田」
「え、だってお前猫になったはずじゃ……」
「え、なにそれ夢?」
寝ぼけてんの?
そう言って、松野が俺の顔を覗き込む。
そして、いつものようにヘラッと笑うと、俺の横から帽子を拾った。
「あったあった。よかったー、探してたら昼になっちゃったよ」
「え?」
「帽子、この子にかぶせて遊んでたら、そのまま持っていかれちゃったんだよねー」
「……は、はぁ」
つまり、松野が猫なんじゃなくて、松野の帽子をかぶったただの猫、?
なんだか急に恥ずかしくなってきた。
何で俺はこんな大真面目に猫と話してたんだろう……。
「あ、もしかして、この子を僕だと思った?」
ふ、と隣で笑いが聞こえた。
「……思ったよ。悪いか」
「ううん」
松野の方に向きなおうとしたその瞬間、頬をペロリと舐められた。
猫にじゃない、松野に。
「…………まままままつの!?」
「あは、半田ってば顔真っ赤!」
「なんの真似だよ!ていうかここ学校だから!」
慌てる俺。
あは、と笑って、松野は満面の笑みで答えた。
「あのね、僕、――――」


END


隣でため息が聞こえた。
振り返ると、ムスッとした顔で、猫がこっちを見ていた。
「んなっ(いちゃいちゃすんな)」


.

[mokuji]



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