遠くの憧れ、近くに(風+円)

いつも、うらやましかった。
全力で好きなものに向かっているあいつ。
いつもまっすぐ前を向いていて、後ろや下を向くこともなくて。
いつも笑っているあいつが、うらやましかった。



――――遠くの憧れ、近くに



「よし、休憩!」

放課後、部活が休憩時間になって、俺は水飲み場に向かった。
走り詰めで汗だくな体を冷やしたくて、まず顔を洗う。
顔を上げ、気づく。

「あ、タオル忘れた…」
「ほら」

横からタオルが出される。

「あ…円堂」

ありがとう、そういってタオルを受け取る。

「風丸も今休憩なのか?俺んとこもなんだ!」

俺も使いたいから終わったら貸してよ!
そういって円堂も隣で顔を洗う。
俺がタオルを手渡すと、さんきゅ、といって円堂が笑顔を見せる。
白いタオルに笑顔が埋まる。
そしてそのまま、動かなくなった。少しして、ため息が聞こえる。

「なー風丸、俺さ、すげーサッカー好きなんだ。」

円堂が、タオルに顔をうずめたまま言う。
初めて聞く声。いつもの元気が、ない。

「でもさ、試合とかしたこともないし、…母ちゃんもあんまりいい顔しないし、さ。このまま続けてていいのかな、なんて…」
「円堂…」
「こんなことして何になるんだって、ちょっと思ったりもしてさ。」
「…」

なんて声をかければいいのか、わかんなかった。
いつも笑顔で、誰に対しても明るい円堂は、誰にも悩みを話せないで心の内に潜めてた。
それを気づかないまま、俺は勝手にうらやましいだなんて思っていた。
遠いあこがれの存在みたいに思ってた。
…だから、不謹慎だけど、少しうれしかったんだ。円堂が近くに感じられて。

「…あー、っと、なんかごめんな!!こんな話、風丸にしても迷惑だったよな」
「そんなことない!」

黙り込んでしまった俺に、タオルから顔を上げて円堂が言う。
あわてていった俺に、円堂は少し眉を下げて笑う。

「じゃあ俺、部活戻るな!」

そういうと、円堂は軽く手を挙げて走っていった。
俺は手を振り替えすことができずに、その背中を見送ることしかできなかった。



夕方、着替えて部室から出た俺の目にサッカーボールが入る。
なんとなく拾って土を払っていると、後ろから、あれ、と声がした。
振り返らなくてもわかる、いつもの声。

「円堂、今日久しぶりに一緒に帰らないか?」

振り返って軽くボールを投げる。
円堂は正面でボールを受けると、首を傾げた。

「え?あぁ、いいけど…」

ぽりぽりと頬をかいて、あ、という。

「もしかして、気にさせちまったか?ごめんっ!変なこと言っちゃったよな…」

眉を下げてあはは、と笑う。
…俺に、何ができる?

「違うよ。俺が話したいことあるんだ。」
「うーん、そうなのか?…じゃあ一緒に帰るか!おまえの話、俺が何でもきいてやるぜ!」

少し考えて、円堂がいつものようにニッとわらう。
そして、校門に向かって走る。

「おい、円堂?」
「校門まで競争!おまえ足はやいんだからこれぐらいのハンデあってもいいだろ!」

だいぶ先から円堂が叫ぶ。
俺はいつもと変わらない円堂に笑って、追いかけることにした。



「で?」
「で、って?」
「だーかーら!おまえが話あるっていったんだろ!まあ…はなしたくないならいいけど…」

校門をでて少しして、円堂が言う。
実は、…何も考えてなかった。
えっと、なんだ、働け頭、何を言う、この沈黙を…っ
立ち止まった俺の横で、円堂がリフティングを始める。
何も言わないで待っててくれるのは優しさなのか、それとも…

「あ…その…え、円堂は、」
「んー?」
「円堂は、今後、どうしたい?」
「今後ー?」

リフティングをしながら円堂がききかえす。
「その…ほら、このままサッカー続けたいのか?」
「あぁ…うーん、続けたいけどさー…」

円堂が高くボールを蹴り上げる。

「上は目指したいさ。いろんな相手と試合して、競って、上手くなりたい。でも、…あっ」

ボールが降ってくる。それは、とろうとした円堂の腕に当たって、向きを変えて俺に飛んできた。
俺はそれをキャッチすると、そのボールに目を落としたままいう。

「俺もさ、迷ってたんだ。陸上続けて何になるんだろう、って。」
「風丸も?」
「あぁ。強い奴らと競ってみたい。でも、そこまでの自信もなくて…」

ひとつ、深呼吸。
そして、顔を上げる。

「円堂も同じことで悩んでたなんて思いもしなかったよ。さっき円堂の話聞いてさ、嬉しいっておもったんだ。」
「風丸…」
「円堂、」

ボールを差し出して、できる限りの笑顔を。

「一緒に頑張らないか」

円堂はぽかんと目を丸くする。
そして、へへっと笑った。
鼻の下をこすって、ボールを受けとる。

「あぁ!」

ありがとな!!そういって、円堂は笑顔を見せた。
それは、いつもより明るい、とてもとても素晴らしい笑顔にみえた。



「結局お前、俺のこと気にしてくれてたんだな。」
「…だって、友達だろう?心配ぐらいするよ。」
「くーーーっ!!俺、お前みたいな友達がいて、すっげー幸せっ!これからもよろしくな!!」


――END

この日、俺のあこがれの人は、俺の一番の友人になりました。
結局何も解決に至っていないような気がしたんだけど、円堂はなんだかにこにこしているし、そのまま分かれ道にきてしまって、ばいばいしたんだ。
心配していたんだけど、そのあとから円堂はいろいろ俺に相談してくれたりして、こんな俺でも円堂の支えになれたのかな、なんて、とてもうれしかった。
俺も、円堂みたいな友達がいて、すごいうれしいよ!



[mokuji]



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