happy valentine!! (南雲と涼野)

「なー風介、ちょっと買い物つきあってくんない?」

俺は風介の背中を軽くたたいて声をかけた。
振り返った風介は何となくだけど面倒そうな顔をしているように見える。

「何故?」
「何故って、…特に理由なんかねーよ」
「そう…仕方ないから一緒に行ってあげてもいいけど」

あいっかわらず素直じゃねー言い方。
でも、これで第一目標クリア!

「で、どこに行くの?」
「とにかくついてこいよな!」
「…はぁ」

ため息が聞こえたような気がしたけど気にしない!
俺は風介の腕をつかんで歩き出した。



「俺、これとかおいしそうだと思う!」
「…」

ついたのは、某デパートの特設会場。
『バレンタインデー』
というチラシがあちこちに貼ってある。
そうそう、俺はここにきたかったの!

「風介?聞いてる?」
「…はぁ」

またため息。
そんなにいやだったのか、ごめん、かえろうか、俺別の時に一人でくる!そう言おうとしたら、風介が俺の手からチョコをとる。
じっとパッケージをみてから、口を開いた。

「ちなみに、誰にあげるの」
「え…えー、あー、ち、チームのみんな?」

俺の言葉にガゼルはもう一度ため息をつくと、バレンタインというものを知ってるのか、と聞いてきた。
バカにすんなよな、俺だってそれぐらい知ってる!

「大事な人にチョコあげんだろ?」
「日本では主に女の子から男の子に、だけどね」
「…」

…んなこまかいとこまでしるかよ

「とにかく、みんなにあげるならこんな少ない数のじゃだめだね」
「え?」
「一人に一つ買うつもりだったの?それならこれはいくら何でも高すぎると思うけど」
「う…」
「これなら数も丁度いい、あ、これも」
「えっと」

売り場をさっと歩き回りながら、風介はいくつかを指さしていく。
どれもうまそう。選べねーよ…。

「どれにする?」
「…選べない、風介選んでよ」

このままじゃ第2目標がクリアできない!
俺は風介の好みで選ぶことを期待して、風介に選ぶのを頼んでみた。
とたんにぴたりと止まる足。

「風介?」
「…晴矢は何しにここにきたの?」
「え、何って、チョコ買いに」
「うん。で、私は晴矢についてきてあげたはずだよね」
「そうだけど」
「何で晴矢がみんなにあげるものを私が選ぶのかな」

あ…怒ってる。

「わわわかったよ!じゃあこれにする!決めた!」

とっさに風介の横にあったチョコに手を伸ばす。
はぁ、とため息が聞こえた。
第2目標クリアは無理そうだ。
…仕方ない、正面からぶつかるしかねーか。

「あのさ!」
「なに?」
「ふ、風介はどんなのが好き?ていうか、どれが好き?」

風介はちらりとこっちをみると、いらない、といった。
…え、いらない?

「何故私に?」
「だって、…今日、俺が無理言ってこさせちゃったんだし、お礼、みたいな?」

無理無理、いえない、みんなに買うっての嘘でしたなんていえない!

「…それなら、いらない」
「そ、そーか…」

レジ並ばないのか、と声をかけられて、仕方なく並ぶ。
みんなに買うつもりなんてなかったんだけどな…。



夕方、部屋に帰ってきて、財布を開ける。
300円。
もう一度数える。
300円。
…ちくしょう、もうたいしたものかえないじゃん。
あーあ、バレンタイン明日なのに、な。



次の朝、ドアノブをまわすと、がさ、とおとがした。
なんだろう。
ドアの反対側のドアノブをみてみると、この前行った店の袋。
え、誰だろ?なんて思いながらあけてみたら。

「…この前俺がみてたチョコだ」

…――
 「俺、これとかおいしそうだと思う!」
 「…」
       ――…

ほかには何も入ってないけど、たぶん風介だ。
だって、これおいしそうって言ったの風介の前でだけだし!



風介に会いに行くその前に、俺はコンビニによった。
300円じゃたいしたものかえないけど、ないよりまし、っていうし。

「風介!」
「…あぁ、晴矢、おはよう」
「これ!こんなんで悪いけどお前に!」
「…いらないと言ったはずだが」

む、とした顔で俺をみる風介。
俺はそのまま袋を突き出す。

「もらいっぱなしってわけにはいかねーだろ」
「何の話だ?」
「チョコ、ありがとな」
「…覚えがない」

何をいっても自分ではない、といいはる風介。
だけど、もう違っても後には引けないし、俺も意地になって、風介の手に袋を握らせた。

「…だから」
「あーもう俺、お前に買いたかったの!」
「…は?」
「それお前に!安もんで悪かったな!じゃあな!」

それだけ言うと、俺は走った。逃げた。
そのまま自分の部屋まで走って入って、それから大事に包みを開けて、もらったチョコを一つ口に。

「あまっ」



――――happy valentine!!



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[mokuji]



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