花屋さん

「イエンリィ、今晩何食べたい」

後ろから着いてきているだろうと、振り返らずに声をかけるが返事代わりの鈴の音は一向に聞こえてこない。

「……イエンリィ?」

まさか、と思い振り替えるとついさっきまでいた場所にイエンリィの姿はなく、買い物かごを持った女が訝しげにこちらを見ていた。
結構好みの女だったが、声をかける余裕はない。

「イエンリィ!どこだ」

歩いていた道を引き返し、後を辿るがイエンリィの姿は見つけられなかった。

「くそっ!」

迷子センターに行くか?いや、話せないイエンリィが行く可能性は低い。

「迷子札でも作っておくべきだったか」

かごに入れた野菜を見ながら項垂れていると、不意に後ろから服を引っ張られた。

チリン、と微かに鈴の音が聞こえる。

「イエンリィ?」

振り向くときょとんとした、何も知らない様な顔でミルクプリンを大量に抱えたイエンリィが立っていた。

「……食べたいのか?」

ミルクプリンを指差すと、こくりとイエンリィの首が縦に揺れる。

「……野菜も食べるんだぞ」

肯定か否定かわからない鈴の音がチリン、と鳴った。


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