秋さんと高遠さん
「寒いな…」
イルミネーションで華やぐ街の中を、高遠は一人で歩いていた。
さすがにクリスマスだからか、今日は大した事件もなく定時を10分程過ぎた時間に警察署を出ることができた。
「コーヒーでも買うか」
自販機に小銭を入れ、目当てのコーヒーを目線で探す。
手を伸ばしてボタンを押す前に横から伸びた手が違うボタンを押した。
「なっ」
突然のことに驚き、腕の主を見るために振り返ると
「こんばんは、高遠さん。お一人ですか?」
「あ……き、くん?」
そこには白いコートに身を包み、にこやかに笑う秋が立っていた。
「どうしてここに」
「友達を待っているんです」
秋はそう言うと自販機の取り出し口に手を入れ、高遠から横取りしたホットココアを取り出した。
「いつ来るかわからないんですけどね」
ココアを両手で握り、暖を取る姿は寒さに震える子犬のようだ。
「……よかったらお茶でもどうだい?」
だからつい、高遠の口からそんな言葉が出た。
「刑事さんがナンパですか?」
不審そうな秋の視線が突き刺さるように痛い。
じっとりとした半眼に見つめられ疚しいことはないのに冷や汗が背中を伝う。
「い、いや、そういうつもりではないんだが…。その友達が来る時間までまだあるんだろ?ここでは寒いし…」
射抜くように真っ直ぐな秋の目から逸らすと視線に負けて語尾が弱々しくなっていく。
「仕方ないですね。ココアのお礼にナンパされてあげますよ」
「秋くん……」
「紅茶の美味しいお店がいいですね」
座木の紅茶を飲み慣れた秋の舌を、満足させられる店を高遠が知っているはずもなく。
「……善処するよ」
咄嗟に出る日本人特有の表現で返事を濁した。
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