座木さんと秋さん

「髪、伸びてきたな」

秋の指が少し伸びた襟足弄ぶ。
うなじを掠める指が冷たく、背筋がぞくりと震えた。

「そうですね。そろそろ切りませんと」

そう言えば視界に前髪がちらついて鬱陶しく感じていた頃だった。

「お願いできますか?」

「はいな。腕に縒りをかけて切ってやろう」

「ふふ、信頼してますよ?」

腕捲りをしてにやりと笑う秋の妙な子供っぽさに笑ってしまう。
出会ってからずっと秋が私の髪を切っているので腕前には不安はない。少し疑問に思うとすれば何故理髪店で切らせるのでははなく自分で切ろうとするのか、だ。
昔、何度か聞いたことがあったがうまくはぐらかされて答えは結局得られていない。

「……では、新聞紙とハサミを取ってきますね」

「おー」

理由を尋ねたくなる衝動を何とか押さえ、ぷらぷらと手を振る秋に見送られリビングを出た。



「髪の毛一本も誰にも触らせたくない、なんて甘ったるい台詞、恋の妖精でもないのに言えないさ」

一人になったリビングで、秋が本音を混ぜた独り言を吐いたのを私は一生知ることはない。


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