刑事組

ッポーンと頭の音が抜けたインターホンの音が軽快に鳴る。高遠は何度目かわからない溜め息を吐きながら自分の指先を見た。
自分では特別おかしな鳴らし方はしていないはずなのに、何故か毎回必ず頭の音が消える。まともに押して音が鳴るのはバスの降車ボタンくらいだ。

「せんぱーい、鍵開いてますよー!」

そんな取り留めのないことを考えて固まっていた思考が、叫ぶような声で呼び戻される。家の主である葉山は音の鳴らし方で高遠と判断したようだ。

「葉山くん、お邪魔するよ」

一言断り、慣れたように葉山がいる一室を目指す。元同僚で後輩、友人の弟と、高遠にとって色々な肩書きを持つ葉山は年齢よりも幼い顔を普段以上に緩ませ、炬燵に入りくつろいでいた。

「先輩いらっしゃいませー」
「久しぶりだね、葉山くん」
「ナイスタイミングですよ先輩!そこに置いてある蜜柑取ってください」

挨拶もそこそこに、葉山は高遠の後ろを指差した。
指を差された場所にはりんごのイラストと、大きく青森と書かれた段ボールが一つ。中を覗くと美味しそうに黄色く染まった蜜柑がぎゅうぎゅうに詰まっていた。
リンゴの箱に蜜柑とは紛らわしい。

「これは……随分と多いな」
「兄ちゃんが持ってきたんですー。こんなにいっぱい一人じゃ食べきれないですよ」

ぷんぷんと効果音が付きそうな顔で怒りを表していた葉山は、蜜柑を一房頬張ると途端に笑顔になった。きっと兄である真鶴に会う頃にはその怒りもきれいに忘れているだろう。

「あっ先輩、先輩!」
「ん、なんだい」

嬉々として高遠を呼ぶ葉山の声は、先程まで不満を訴えていたとは思えないほど明るい。炬燵にもたれるように座っていた葉山は中の温もりを逃がさないよう、最小限の動きでうつ伏せになると、両手の人さし指を立て頭の上に乗せた。

「こたつむり!」

輝くような葉山の笑顔が眩しい。確かにかたつむりに見えないこともない、だがそのネーミングはどうだろうと、高遠がどう反応を返そうかと悩んでいると葉山は最初に見た体勢に戻り、いそいと2個めの蜜柑を剥き始めた。
特に反応を期待していたわけではないらしい。葉山の突拍子もない行動に慣れたとはいえ、たまに驚かされる。

「……今夜も冷えそうだな」

炬燵に入ると足先からじわりと暖められ、出ている部分がやけに寒く感じる。炬燵は人を駄目にするというが、確かにこの温もりは手放しがたい。

「葉山くん、今夜は鍋でもどうだい?」

俺キムチ鍋がいいです!と満面の笑みで言う彼の手にはすでに3つめの蜜柑が握られていた。


戻る



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -