リベザルと座木さん

額、瞼、鼻の先、頬と順々に落とされていく口付けに、リベザルはくすぐったそうに身をよじった。

「あははっ、あ、兄貴……くすぐったいです」

「……嫌?」

優しく微笑む座木に聞かれ、リベザルは首を勢いよく横に振る。
少し勢いをつけすぎてまわる視界をどうにか安定させて座木の服をぎゅっと握りしめた。

「嫌じゃないです!少しくすぐったいけど、これが日本でのおやすみの挨拶なんですよね?」
「……そうだよ」

真っ直ぐ見つめるリベザルの視線から逸らし、座木は嘘をついた。
余程の西洋かぶれでない限り、日本でこんな事をしている人はまずいないだろう。

秋が悪ふざけで教えた嘘の風習を信じて疑わないリベザルは、日本に来て十数年経った今でもこうして寝る前の挨拶としてキスをされる事を受け入れている。
いずれ嘘だと気づくと思っていたが、そんな事を教えるような友達がリベザルにはまだいないため、未だに気づかないままだ。

(いつかは気が付く時が来るんでしょうが、少し寂しい気がしますね)

これが巣立つ子供を見送る親の感覚なのか……それとも別の感情なのか。
他の可能性については深く考える事はやめて、座木は仕上げとばかりにリベザルの顎を指で挟んで上に向かし、唇の右端ギリギリに口付けを落とした。

「んっ……」

ピクっと肩を揺らすリベザルに小さく笑うと座木は唇を当てていた場所を舌先で軽く舐めた。

「兄貴?」
「……おやすみ、リベザル。いい夢を」

座木は不思議そうに見つめるリベザルの頭を優しく撫で、普段通りの笑顔で微笑んだ。


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