記憶の輪郭/銀妙



―――すみません 

今はまだ思い出せませんが
必ずあなたのことも
思い出しますので

それまで 
しばしご辛抱を―――




妙が家に戻ると、記憶をなくした銀時が記憶を取り戻して新八と神楽と共に待っていた。

「姐御〜!銀ちゃん元に戻ったヨ!!」
「姉上!やっと銀さんの記憶が戻ったんですよ!」

嬉しそうに報告する2人の頭を優しく撫でて、妙は銀時を見つめた。

「まァ、そォなの〜!素敵だったニュー銀サンは封印されてしまったのね」
「オイィィィ!ちょっと待て!そこは『…良かった(涙)』とか系のセリフで、オプションに熱い抱擁が付くトコじゃねーのォォ!?」
「そんな風にロクなことに頭使わねーから事故ッたくらいで記憶が飛ぶんだろーが!もう一度脳内リセットしてやろーか」
「スミマセンでした!」

相変わらずの2人を見て、新八と神楽はやれやれと苦笑いを浮かべて仲裁に入った。


そのまま少々遅めの夕食を取り、妙は湯に入って一息ついた。
ぼんやりと記憶が戻る前と戻った後の銀時を思い浮かべた。
妙は不思議に思う。

“記憶が無くなると、顔つきまで変わってしまうものなのね”

何とはなしに、湯気で曇った鏡を見つめてみた。
曇った鏡は妙の曖昧な輪郭しか映してくれず、妙は軽く頭を振って湯から出た。


妙が居間で涼みながら髪の手入れをしていると、銀時が頭を掻きながらのそりとやってきた。
そのまま妙の隣にどっかり座ると、電源の入ってないテレビの画面を見つめながら口を開いた。

「お妙」
「なによ」
「あー、その、なんだ…」

妙がそのまま手を動かしていると、銀時は意を決したように妙を見つめた。

「‥お妙さん」
「言いたいことがあるならハッキリ言わないとわからないでしょ?その顔についてるのは飾りものかしら?」

本題を切り出さない銀時に焦れて、妙は銀時の頬を引っ張った。

「痛ェ痛ェ、わかったから引っ張るのを止めてお妙さん」

銀時はコホンと咳払いをした。

「初対面の人間でも遠慮なく叩きのめせる、ゴリラに育てられたようなお妙」
「まァ銀さんたら、喧嘩でも売りにきたのかしら?」
「まァ待て。最後まで聞い…うぉッ」

妙が手にしていた櫛を銀時の顔目掛けて投げつけると、慌てて銀時は身をかわした。

「いいから、ちょ、落ち着いて聞けって!
ストーカーされて困っているっていって俺の頭でパフェのグラスを割ったお妙。
ピコピコハンマーでストーカーを地面に沈めて、その場にいた男達を一人残らず土下座させたお妙…おわっ!」

今度はテレビのリモコンが急所目掛けて飛んできた。
どうにかそれも紙一重で避けると、今度は妙が立ち上がるのが見えた。

「待てって!フンドシ仮面をシメるのに俺をロイター板代わりにしたお妙。
暴走族とのレースでもオートバイで俺を踏み台にしたお妙。
インチキ宗教団体で教祖から信者の金を巻き上げ…いだだだだマジギブ!ギブ!!」
「人の悪口散々言っておいて何だって言うのよ」

ギリギリと銀時を締め上げる妙の手を、銀時は強引に振り解いて逆に畳に押さえつけた。

「いいから聞けって…道場を守ろうとして空飛ぶ遊郭に行こうとしたお妙。
橋の上でそっと微笑むお妙。
桜の下で嬉しそうに笑ってるお妙」

押さえつけている妙の手から少しづつ力が抜けていくのがわかる。

「フンドシ仮面を捕まえて誇らしげに微笑んだお妙。
ヅラを掴んでビックリして気絶しちまったお妙。
大勢の信者の前で磔にされても凛としてたお妙…」

そこまでいうと軽く息をついて、銀時は妙の目を覗き込んだ。



「お妙」



銀時はそっと手を伸ばして妙の目元を拭った。

「…な?お妙のことちゃんと思い出しただろ俺は」
「……私は、別に」
「アレレ、じゃあこの目から出てるのは何ですか心の汗とでも言うんですか」

わざとらしく無表情で混ぜっ返すような言葉に、思わず妙は吹き出した。
それをみて安心したように、銀時も口元を緩めた。



記憶を持っていようが無くそうが、あなたはあなたなのに。
その声で、いつもみたいに名前を呼んでもらえると、どうしてこんなに安心してしまうのだろう。
どうしてこんなに頭も胸もいっぱいになってしまうのだろう。



「黒目や眉は元に戻っちまったけど、もう大丈夫だから。…驚かせちまって御免な?」


銀時は震えるように静かに涙を落とす妙をそっと抱きしめた。



(050504)






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