白日の再勝負/銀妙




銀時はその日が近づくにつれ、頭を悩ませていた。
黒目が小さくて眉との間が開いていても、銀時は必死に頭を絞っていた。

「…大体、こんなん俺のテリトリー外なんだよ。ったくホワイトデーなんて余計なモン作ったの誰だコノヤロー。みんなで楽しく甘い菓子を楽しむ。ホワイトデーじゃなくてスウィートデーとでもした方が生産的だし名前もイイ感じじゃねーか」

世の女性が聞いたら9割は鉄拳制裁を加えそうなことをブツブツ呟きながら、銀時はひたすら街を歩いていた。

散々歩いて、咽喉も渇き腹も減り、ついでに足も痛くなってきたところで、一休みしようと銀時が近くに見えた喫茶店に歩き出した時。

「…おっ」

ふと銀時の目に付いたモノ。


――あいつはピンクや緑とか淡い色がとても似合うけど。
こういう深い紫も似合うんじゃねえか?

決めた、チョコのお返しはコレにしよう。


銀時はソレを店主に包んでもらい、満足げに一つ頷いた。

「あとはインパクトだな…」

そう呟くと、銀時は喫茶店に入ることも忘れて万事屋へと向かった。


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ホワイトデー当日。
銀時は志村家に赴いて炬燵の定位置に落ち着くと、徐に妙に手にしていた小さな袋を差し出した。
そしてごろんと横になり、庭を眺めながらぶっきらぼうに言った。

「やるよ」
「‥なぁに?これ」

首を傾げながら妙が袋をあけると、中からしゃらん、という音と共に一本の簪が出てきた。
鈍く光る銀色に同じく鈍く輝く銀の薔薇と、吸い込まれそうな深い紫水晶と白い真珠が飾られている。

簪を見つめながらの暫しの沈黙の後、妙は銀時の目を正面から捉えて真顔で言い放った。

「銀さんたら、いくらお金が無いからって万引きは犯罪よ?」
「ブッ」

銀時は思わず畳に頭を打ち付けると、猛然と起き上がって叫んだ。

「違うわァァァァ!!ちゃんと金出して買った真っ当な代物だっつの」
「あらそうなの?そういえばこの前久し振りに新ちゃんがお給料もらったって言ってたわね」
「お前俺を何だと思ってるんですかコノヤロー」
「万年金欠貧乏人」
「クッ、否定できないところが切ねーんだよコンチキショー!あ、イテッ!ガラスのハートが傷ついたちゃったぜ」
「ハイハイ」

妙はスッと立ち上がると、鏡に向かって髪を結い直し、もらったばかりの簪をそっと髪に通した。
鏡の前で頭の向きを変えて、簪が妙の動きに合わせて揺れるのを嬉しそうに見つめていた。
そんな妙の様子をそっと眺めながら、こっそりと銀時は目を細めてホッと息をついた。


なんだよ、可愛いじゃねーかコノヤロー。
喜んでもらえてるみてェだし、やっぱりあの色もよく似合う。


ややあって鏡で簪を見るのに満足したらしく、妙は炬燵へと戻ってきた。

「どうもありがとう、銀さん。どうかしら?似合ってる?」
「あぁ、いーんじゃねェ?馬子にも衣装たァ、よく言ったもんだよな〜」
「ふふふ、銀さんたらそれ冗談のつもり?ちっとも面白くないわ」
「ハイ、ギブ!ギブギブ!!すみませんちょっとした冗談ですからその手を離して下さいませんか」

ミシミシと妙のアイアンクローを甘んじて受けながら、銀時は第二の作戦に移った。

「‥お妙」

容赦なく顔を締め付ける妙の手をどうにか外して握り締め、銀時は妙をじっと見つめた。
いつになく真剣な目に、妙はほんの僅かにたじろいだ。

「なによ、銀さん」
「あのな、それが入ってた袋にはもう一つプレゼントが入ってんだ」
「えっ」

簪が入っていた袋を開けると、折りたたまれた紙が出てきた。
カサカサと紙を開くと、それには次のように書いてあった。


『取扱説明書

・通常の生活にあれば特に注意を要することはありません
 (ただし甘いものは切らさないようにしてください)

・体力・力・敏捷性に優れています
 (甘いものを与えるとより働きが良くなること請け合い)

・耐久性に富んでいるので、少々過酷な環境でも壊れる心配はありません
 (でも鉄拳制裁は勘弁してください)

・いざというとき目が煌めきます
 (ついでに心にはバズーカ持ってます)

・糖分は必要にして十分な量を与えてください―――…』


「なぁに?コレ」

妙が怪訝そうに銀時を見ると、銀時はいたずらっぽくニッと笑って妙に答えた。

「見りゃわかんだろ?俺の取説」
「はぁ?」

妙が不思議そうに眉根を寄せるのを見て、銀時は構わず妙の方に身を乗り出した。

「まァ、そういうこった」
「そういうことって…ちょっと、銀さ‥っ!」

銀時は妙に覆い被さるように、どんどん身を乗り出してくる。
ジリジリと上半身を逸らして避けていた妙だったが、ついに限界がきて後ろに倒れ込みそうになり、寸でのところで銀時の腕に支えられた。
そのままそっと妙を横たえると、銀時は妙の耳元で低く囁いた。

「…受け取ってくれるかィ、お妙?」
「……っ」

妙が銀時を見上げて、何か言おうとした瞬間。
真冬の寒気よりもさらに冷たく低い声が静かに響いた。

「…人様の家で姉上に何さらしてくれてんだテメー」

ギクッと銀時は身体を強張らせると、恐る恐る後ろを振り返った。
そこにはメガネを光らせた新八が殺る気満々の殺気を湛えて佇んでいた。

「ゲッ、新八!」
「あら、おかえりなさい新ちゃん」

新八はゆらりと銀時に近づくと、木刀を構えて有無を言わさず銀時に襲い掛かった。

「哀れな糖分中毒者に魂の救済をォォォ!!!」
「新八君それマンガ違うから!まずは落ち着け!深呼吸から!!」
「やかましい!そこへ直れェェェェェ!!」

あっという間に部屋を駆け出した2人をやれやれと見送り、妙はもう一度紙を読んで微笑んだ。
妙の髪の上で、しゃらん、と嬉しそうに簪の飾りが音を立てた。



(050313)






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