遠慮なく召し上がれ/銀妙




「……」


万事屋のテーブルの上には重箱が鎮座していた。
それを見つめながら石と化しそうな銀時に、重箱を持ち込んだ当の本人はにっこり微笑みながら言った。


「今日は厚焼き玉子に挑戦してみたの〜」

「新八くーん!神楽ちゃーん!ご飯ですよ〜!」

「二人とも出かけたみたいよ」

「……」


銀時はガックリとうなだれた。


「あのな‥ひとつ聞くが、卵焼きを作る時に味見はしねーの?」

「そういえば卵を焼くのに集中して、いつも忘れちゃうのよね」

「忘れちゃうのよね。じゃねーよ!
その一手間でお前、卵だけじゃなくて周りの人間まで救えるんだぜ!?」

「じゃあ次に作るときに是非挑戦してみるわ。
つーかゴチャゴチャうるせーんだよさっさと食えや」

「ちょ、待て待て!ちゃんと食うから!!だから瞳孔をどっかの副長みたく開くのは止めとけ!な?」


徐々に増していく妙の殺気を感じ取って、銀時は腹を決めた。
その様子を見てとると、妙は嬉しそうに、まるで花が綻ぶように微笑んで言った。


「さっ、遠慮なく召し上がれ」


銀時は一瞬目を見開いて、それから頭を掻きながら箸を取り、厚焼きもどきに向き合った。


「‥おぅ、申し訳ねぇがお茶淹れてくれねーかぃ?お妙サン」

「仕様がないわねぇ、いいわよ。ちょっと待っててくださいね」


妙がお茶を淹れに立つと、銀時は箸を握り締めながら自己暗示をかけるように呟いた。


「‥いいか、肝心なのはスピードだ。とりあえず飲み込んじまえばこっちのもんだ。がんばれ俺!こいつさえ片付ければ‥」

「はい、お茶ですよ」


妙が戻ってきて銀時の前に湯飲みを置くと、銀時は白夜叉の頃を彷彿とさせるような顔で妙を見つめた。


「‥おう、サンキュ。よく見とけよ、俺の生き様を!」

「銀さんったら大袈裟ねぇ」


“お前の料理は命がけなんだよ!”


という思いと共に、銀時は一気に厚焼きもどきを口に放り込み、すかさず飲み込んでお茶を流し込んだ。


「‥‥っっはー!ご、ご馳走様でした‥」

「お粗末でした」


綺麗に平らげられた重箱を見て、妙は嬉しそうに微笑んだ。
銀時はお茶を飲み干して息を整えると、妙の隣にどっかりと腰を落ち着けた。


「‥じゃ、次はデザートな」

「‥デザートは、用意してませんけど?」


銀時はきょとんとしている妙の手首を捉えて顔を寄せた。
そのまま妙の耳に低く囁く。


「遠慮なく召し上がれってさっき言っただろ?」

「え‥?」


妙の身体が緊張で強張るのを感じて、銀時は思わず笑みを零した。


「…いただきまーす」

「ちょ…っ!」


妙が抵抗しようとする前に、その白い首筋に吸い付いた。


…だってお前、アレは反則だろ?
あんな笑顔で召し上がれって言われたらお前、そりゃあ悔いのない様に完食するぜ?



(050206)






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