金平糖の作法/銀妙




天気の良い午後。
穏やかに陽の光が差し、時折自転車や車が走り抜ける音がする。

いつものようにジャンプを顔に乗せて、銀時は午睡の真っ只中にいた。
その横でお茶を飲みながら雑誌を読んでいた妙は、ふと思い立って昨夜置きっ放しにしていた信玄袋を手に取った。

袋を開けると、中にはいくつかの小さなの袋が入っていた。
色とりどりの金平糖が和紙から透けて見え、まるで宝石を包んでいるかのような綺麗な色に思わず妙は顔を綻ばせた。

「‥綺麗!」

一つ一つ取り出して眺めてみると、ただの金平糖ではなかった。
薄いブルーはサイダー、ピンクは桃、オレンジは蜜柑。
淡い黄色の柚子や緑色の抹茶もある。
赤ワイン・甘酒・ブランデーなどのお酒を材料にしたものまであり、さすが夜の女にプレゼントされたものだけあるわ、と妙は思わず感心した。

特に興味を惹かれたものを一つ手にとって袋を開けると、微かだがふんわりとアルコールの香りが広がった。
1粒口にしてみると、懐かしい甘さ。
でもそれだけではない、何か。

口の中で転がる感触と味を楽しんでいると、犬のように鼻をスンスンさせながら銀時がガバリと起き上がった。

「ハッ……糖の匂いがする!!おいお妙、何食ってんの?」
「相変わらず甘いもののことになると、銀さんは人間の域を超えるんですね」
「お前それは砂糖の申し子として、褒め言葉って取っておくぜ」
「褒めてねーよ」

妙は銀時に見えるように、和紙で出来た小さな袋をちゃぶ台の中央に置いた。
中には白く透き通った小さな星たちが、積もった雪のように入っていた。

「昨日常連さんからいただいたんです。金平糖」
「へェ、懐かしいな」

銀時は袋から一つつまんで、口に放り込んだ。
思ったよりもサッパリした甘さが広がる。
それとは別に…ほんのり溶けるような、何かの味がした。
なんだろう、と考えていると妙が同じく金平糖を口に運びながら言う。

「ふふ、ちょっと変わった味がするでしょう?これ、グランマニエという洋酒を使って作ったものなんですって。私、こんなおいしい金平糖初めて食べたわ」
「グランマニエねぇ‥」

銀時はひたすら無言で金平糖をつまんでは食べ、食べてはつまみ、また口に放り込んだ。

「後引く味だな。止まらねェ。美味すぎ!!」
「フフフ、銀さんたら欲張りすぎよ?」

スパァン!と妙に後ろ頭を平手で張られ、銀時は頭をさすりつつお茶を一口飲んで言った。

「そういや、金平糖の食い方って知ってるか?」
「え?こうやってかじったり、飴みたいにするんじゃないの?」
「あー、それ初級者の食し方ね。上級者は違うの。金平糖を口に放り込んだら、そのまま茶を飲むのが通だ」
「ふぅん…」

言われるままに試してみると、口の中の金平糖が飲み込むお茶を砂糖のフィルターでろ過したように、甘くてサッパリした味になった。

「ほんと、美味しいわね。普通に飲むのとはまた違った感じがするわ」
「だろ?あともう一つは、だな…」

銀時は金平糖をまた一つ口に放り込んだかと思うと、妙の腕をぐいっと引き寄せ、そのまま唇を塞いだ。

「…っ!?」

突然のことに驚いた妙が銀時を押し返そうとすると、銀時はそうはさせじと妙の腕ごと抱え込む。

「……んん…っ!」

息苦しくなって思わず唇を開くと、ころんと口の中に甘い味が広がった。
その甘味を追うかのように、銀時の舌も入ってくる。

「…っ、ん…」

口に広がる甘い味と柔らかい口付けに、妙は自分も溶けていくんじゃないかとボンヤリ思った。
やがて金平糖が溶けてなくなってしまうと、銀時はゆっくりと妙の唇を解放した。

妙がどういう顔をしていいかわからずに思わず赤くなって俯くと、銀時はいたずらっぽく笑んで、妙の顔を覗き込んだ。

「…な?こういうのも美味いだろ?」
「もう、いきなりなんだから…っ!ビックリしたわ」
「オヤ、いきなりじゃなかったらいいのかィ?お姉サン」

そういうと銀時はまた金平糖をつまみ、ゆっくりと妙を引き寄せた。

部屋には、かすかな息遣いだけが静かに響く。
甘い甘い、午後のひととき。



(041205)






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