二学期の終業式も終わり、普通は校舎もシンと静まり返っているのだが。 3年Z組の教室にはクラスメートとその担任が揃っていた。 いつもと違うのは、皆制服ではなく私服でいること。 そして教室は、机と椅子が後方にまとめられ、どこから調達したのかクリスマスツリーが綺麗にデコレーションされて中央に鎮座されていた。 事の始まりは、二学期の期末テスト返却時に何気なく交わされた会話からであった。 「よ〜しお前ら待たせたな。先生から一足早いクリスマスプレゼントだ。こないだの期末テストを返しまーす。平均点未満はもれなくクリスマスイブに特別講義という名の補習に強制参加ね」 補習という言葉を聞いて、ドヨドヨと教室が騒がしくなる中、テストの返却は恙無く行われた。 ある者は平然と、ある者は頭を抱え、ある者は安堵の表情を浮かべる中、神楽は点数を見て妙の元に走り寄った。 「姐御〜!私ダメだったヨ‥せっかく初めてクリスマスプレゼントをもらったのに、補習決定アル‥」 しょんぼりとする神楽に妙はにこりと微笑んで、優しく頭を撫でて言った。 「大丈夫よ神楽ちゃん。私も補習決定だったわ」 ほら、と妙は神楽に答案を見せる。 そこには紙一重で平均点に届かなかった数字が、赤ペンでくっきりと書かれていた。 ため息をついて妙は言う。 「化学と数学は苦手なのよね‥」 「じゃあ姐御と一緒アルか!?良かったアル〜!」 そこにひょっこりと沖田が現われた。 「ありゃ、お嬢さん方赤点だったんですかィ?派手にクリスマスパーティでもやろうかと思っていたんですがねィ」 「クリスマスパーティ?」 「そうアル。私の故郷ではクリスマスっていうの無いアルヨ。そしたら総悟がうまい料理を飲み食いしてご機嫌に騒いで、次の日に目を覚ますと枕元に多串君がプレゼントを置いといてくれるって‥」 「ちょっと待て!!そこでオレの名前が出てくるのがワケわかんねェから!総悟、テメェ間違った知識吹き込んでんじゃねぇ!」 「いいんですゼィ土方さん、そんなに必死に隠そうとしなくても。あ、今年はドラ●エ9で頼みまさァ」 「違うわァァ!自分の金でゲットしてこい!」 「だから、姐御も誘って派手に騒ごうと思ってたアル」 「そうなの‥」 周りの喧騒を他所に妙はしばし考え込むと、ポンと手を打ってにこやかな笑顔で言った。 「そしたら、補習の後にここでパーティをしましょうか!」 妙の一言に何となく会話を聞いていた銀八がズリ、と教壇から落ちそうになったが、そんな担任にはお構い無しに話はトントン拍子に進んでいった。 「わぁっ!それ良いアル!楽しみネ!!」 「確かに会場探す手間が省けまさァ。ここなら遠慮なく騒げそうだし。ねェ土方さん?」 「そうだな。じゃあ補習の間にオレ達は買出しにでも行くか」 「クリスマスツリーはウチにいいのがありますよ」 「あ、僕も運ぶの手伝うよ」 「じゃあクリスマスツリーは山崎と新八でOKだな」 「デコレーションは俺に任せてくれ」 「お妙さーん!!俺も補習です!一緒に受け‥ガフッ」 ここぞとばかりに猛接近してきた近藤を鮮やかな一撃で沈黙させると、妙は満面の笑みを浮かべて銀八に言った。 「ということで、当日は責任者としてよろしくお願いしますね、先生」 「‥‥まぁ、楽しけりゃいいか。お前ら、校舎は壊すなよ」 ということで、補習を終えた妙と神楽達はパーティを楽しんでいた。 神楽はフライドチキンの皮をめぐって沖田と拳を交わしつつ、新八はその仲裁を諦めて桂や山崎と何やら楽しげに談笑している。 近藤はパーティ開始早々に妙に向かっていき、これまた一瞬で瞬殺されて床に伸びている。 妙はジュースの入った紙コップを手に、クリスマスツリーの側へ行った。 金色のボールや色とりどりのリボンで飾られたクリスマスツリーは見てるだけでも楽しい。 よく見ると、誰が持ってきたのかヤドリギまで飾られている。 「‥フフ、かわいい」 妙はサンタクロースや星の飾りを指でつつくと、嬉しそうに笑った。 「クリスマスツリーがそんなに嬉しいのかィ?」 見ると銀八がケーキ皿片手に妙の横に立っていた。 「えぇ。子供の頃以来だから懐かしくて」 「子供の頃って、お前まだ大人でもないだろうが」 頭にポンと手を置かれ、言葉の割に優しく言われて妙は思わず苦笑した。 「そうですね。私はまだまだ子供だわ」 「俺も心は永遠の少年だぜ?」 そして内緒話をするかのように、銀八は妙を手招きした。 妙が不思議そうに顔を寄せると、瞬間銀八は妙の頬に口付けた。 銀八の不意打ちに妙が目を丸くすると、銀八は妙に何か小さく呟こうとして吹っ飛ばされた。 「てめっ!!教師のクセに何教え子に手ェ出してんだ!!」 土方は妙を背中に庇うと、容赦なく銀八を足蹴にしている。 銀八はそのケリをかわすと、ひらりと立ち上がって不敵に笑った。 「おいおい、俺に先を越されたからってそんなにカリカリすると禿げるぜ多串君」 「なっ‥!違ッ!」 「そうですぜィ土方さん。悶々としてねェで行動しないと先を越されちまいますよ」 「余計なお世話だ!っつーか何自然に会話に参加してるんだテメェ!」 「‥話が見えないわ」 「志村、お前もヤドリギの下に無防備に立ってんじゃねぇよ」 「あらどうして?」 「どうしてってお前‥」 言い淀む土方に代わって沖田がさらりと答えた。 「クリスマスにヤドリギの下にいる人には、キスしていいことになってるんでさァ」 瞬間、妙の周りの温度が一気に氷点下まで下がり、背後に暗い炎が燃えた。 「あら‥先程の先生の行動はそういうことでしたの?」 「‥先生、アンタまた人様の姉上に何かしたんですか?」 バキバキと指を鳴らす妙の後ろから新八も眼鏡を光らせてゆらりと立ち上がった。 「ちがっ‥!誤解だってお前ら!」 「「五階も六階もあるかァ!」」 妙と新八が逃げる銀八を追い掛け回してるのを見守りながら、土方は側にあったジュースのコップに手を伸ばして飲み干した。 「それ、姐さんがさっき飲んでたヤツですぜィ」 「‥‥ブハァッ!」 「間接じゃなくて直接狙った方が男らしいですぜィ」 「別に狙っちゃいねェよ!‥そんなんじゃねェ」 「俺相手にもったいぶっても、何の効果もないですゼ」 「‥お前、俺にケンカ売ってるんだな?そうなんだな?」 「ケンカ売ってるなんてそんな。ただおちょくってるだけでさァ」 「よーしイイ根性だ覚悟しろォォ!!」 新たにケンカが始まる中、神楽は心行くまでケーキとフライドチキンの皮を堪能していた。 満足げにお腹をさする神楽のところに、一仕事終えた妙が爽やかに汗を払ってやってきた。 背後には近藤の隣で地に沈んだ銀八の姿があった。 「神楽ちゃん、楽しんでる?」 「クリスマスって美味しくて楽しいアル!」 「ふふ、よかったわ」 「姐御〜!私もさっき銀ちゃんが姐御にしてたのやりたいアル!」 「え??」 神楽は妙にくっつくと、ちゅ、と妙の頬に口付けた。 妙はフフ、とくすぐったそうに笑った。 「神楽ちゃんたら、甘えんぼさんね?」 「違うアル。銀ちゃんには負けてられないネ」 「あらあら、大変ねぇ」 そういうと、妙も神楽の頬に口付ける。 「‥お返しよ」 神楽は一瞬目を丸くしたが、すぐ嬉しそうににっこり笑って妙に抱きついた。 「姐御〜!やっぱり姐御はいい女アル〜!!」 「ふふ、神楽ちゃんの方がかわいいわよ」 ほんわかと和みの光景が広がるのを見て、沖田はボソリと呟いた。 「アリャ、姐さんに先越されちまったィ‥やっぱり強敵でさァ」 「イヤ、アレは女同士じゃないと無理だろ」 「そうだなァ‥まずは警戒心を解かねェと始まらないな」 「ってアンタいつの間に復活したの!?」 「細かいことは気にするな。まぁ、どっちにしても‥強敵だな」 「いい大人が子供相手にマジになるんじゃねぇよ」 「バカ野郎、俺は常に人生全力投球だ」 そうして騒がしいイブの夜は更けていくのだった。 翌朝、枕元にサンタクロースのプレゼントがあったかどうかは定かではない。 (041225) |