春は好きだ。 明るい光の中、色とりどりの色彩が弾むように輝く。 白、赤、ピンク、黄色、オレンジ、ブルーに紫、それに緑。 庭に咲いた木々草木の花に、和やかな視線を廻らせて室内に目を戻すと、木製のテーブルの上で誇らしげにどん、と構えているマヨネーズが目に入った。 その側には浮き立つ春の色彩と正反対の、黒い隊服と黒い髪。 ついでに季節に関係なく鋭い目付きの無愛想な男が、黙々と箸を動かしていた。 更にその男の両側には、泡を吹いて卒倒している男が2人。 妙の料理に打ち負かされた銀時と近藤である。 「だらしが無いわねェ‥ただのスクランブルエッグなのに」 「全くだ」 「だからお前の料理は食った人間がスクランブルになるんだって‥」 虫の息で呟く銀時をお盆で黙らせて、妙はにっこりと土方に微笑みかけた。 「いかがですか?」 「ちょっと火加減が強すぎるんじゃねぇか?焦げが多い」 「まァ、じゃあ次は火力に気をつけてみます」 ―――次ってまだ挑戦するつもりなのか。 つーか火加減が強いのはちょっとどころじゃねーだろ。 焦げどころかほとんど消し炭のようになってただろーが。 そもそもそんな物体にあんなに大量のマヨネーズかけて、味解るのかよ。 こっそりとツッコミ続ける銀時の心の声が聞こえたのか。 妙がお盆で銀時の頭を打つと、銀時は完全に沈黙した。 そして何事も無かったように、心持ち青ざめている土方と和やかに会話を続けた。 「それにしてもいい天気だな」 「えぇ、桜が綺麗」 「…アンタは春が似合うな」 「そう?副長さんは春ってガラじゃないみたい。せめてここでは上着を脱いで楽になさったら?」 そう言って妙がふんわり笑うと、土方も苦笑して上着を取った。 春の光が柔らかく2人に降り注ぐ。 平和な春の一日だった。 「ちょっと待った!どこが『平和な春の一日』なの? こりゃ『銀さんの可哀相な一日』じゃねーの!?しかも多串くんおかしくねェ?ヤツはこんな好青年じゃねぇよ納得いかねー」 「あら、人の料理を劇物扱いしたのがいけないんじゃない。自業自得よ」 「同感だな。男の悪足掻きは見苦しい」 「味覚障害者達に言われたくねーよ。つーかお前、いつからお妙狙いになったワケ?」 「テメーにゃ関係ねぇだろ」 「ちょっと銀さん?味覚障害者って誰のこと言ってんだテメー」 「……俺、もしかしなくても存在薄い?? でもお妙さんへの愛は世界一濃いです!!!ハッハッハ」 ドコォッッ!! 「やかましい」 「「………(汗)」」 (050418)拍手ログ |