『‥寒冷前線が停滞し、上空に冷たい寒気が流れ込むので今夜は雪になるでしょう。 多いところでは明日までに30cm以上積もるところもありそうです。 積雪に注意してください』 仕事が終わり、外へ出てみると牡丹のような雪が降りしきっていた。 どうやら天気予報が外れなかったらしい。 やはり傘を持って出るべきだったわね‥、と妙が小さくため息をつくと、横からスッと傘を差し伸べられた。 驚いて見上げると、銜え煙草の土方がぶっきらぼうに言葉をかけてきた。 「‥傘、無ぇのかよ」 「‥あら、こんばんは副長さん」 「見廻りのついでだ。家まで送ってやるよ」 土方の隊服の肩には、うっすらと雪が積もっている。 妙は小さく笑むと、その雪を払って言った。 「随分タイミングがいいのね。‥寒かったでしょう?」 「‥うるせェ」 バツが悪そうに呟くと、行くぞ、と妙を促して歩き始めた。 かさかさと雪が傘に降り積もる音を聞きながら、妙は言った。 「今夜は積もるそうですよ。天気予報で言ってたわ」 「あぁ、さっき俺も見た。たまには当たるもんだな」 「そうね。この分だと、明日は雪かきしなきゃダメかしら‥」 妙が思案していると、ふいに土方が足を止めた。 どうしたのかと見上げると、前方を鋭く見据えている。 何事かと妙も前を見ると同時に、声が掛けられた。 「おぅ、お妙。迎えに来たぜ〜」 「あら、銀さん」 「つーことだから。多串くんはもういいよ」 そう言って銀時が妙の手を取ると、そうはさせじと土方も妙の肩を引き寄せる。 「あァ?何でお前が出てくるんだ?そっちこそ出る幕ねェからさっさと帰って血糖値と戦ってろ」 「クッ、言ってくれるじゃねーか‥!てめぇこそお妙と無関係だろ?瞳孔マヨラーは大人しくマヨネーズ王国へ帰還しろ」 妙を挟んで、男二人は睨みあった。 「やんのかテメー」 「上等だコラ」 まさに刀が抜かれるその刹那、妙の拳が二人の頭に炸裂した。 相変わらずのキレの良さに銀時と土方がたまらず膝をつくと、妙は低い声で二人に言い放った。 「いい加減にしろやお前等‥私は疲れてンだよ!!」 「「ス、スンマセンでした‥!!」」 ふん、と鼻を鳴らすと妙は傘を拾い上げて歩き出す。 ちら、と後ろを振り返ると、まだ二人は頭を抱えながら小競り合いをしている。 小さくため息をつくと、妙は二人に叫んだ。 「さっさと傘を拾って来いやァ!お茶淹れてあげないわよ」 すると二人はぴたりと動きを止め、妙を追いかけてきた。 「え、何、お茶菓子付きでもてなしてくれるの?」 「誰が茶菓子付きって言ったのよ」 「茶菓子は無ェってよ。わかったらさっさと帰れ」 「いや、お前が帰れ」 「もう一回殴られたいのかしら?」 「「ゴメンナサイ」」 妙は呆れたように二人を見ると、くるりと傘を回して言った。 「‥傘があと一本しかないから、二人で仲良く使ってくださいね。風邪引かれると困りますから」 「「ちょっ、コイツと相合傘かよ!?」」 「ほんとに雪が積もりそうね〜」 そう言うと、妙は歩き出した。 ――お迎えがあるのって、嬉しいものね 小さく呟いて傘の影で嬉しそうに微笑む妙に、傘の奪い合いに夢中になっていた銀時も土方も気付かなかった。 (050123)拍手ログ |