日付が変わって一時間弱。 スナックすまいるの店閉まいを終え、妙とおりょうは肩を並べて店を出た。 外に出ると、何もかも透き通らせようとするかのように空気が冷たい。 寒さに身を竦ませながら、2人は歩き出した。 一方、それを待っていたかのように動き出す影が4つ。 「おいおい近藤さん‥いくら店に行けなかったからってコレ、マジでストーカー行為だって」 「大丈夫だ、トシ!今日もお妙さんは美しい!月も霞んでしまうくらいだなぁ!!」 「顔に似合わず随分風流な言い回しだなぁ‥」 「慣れないことに頭使うと、知恵熱出しちまいますぜ」 これが泣く子も黙る真撰組か。 深々とため息をつく土方を尻目に、近藤は意気揚々とお妙の護衛(実態はストーカー行為)を開始している。 そんな背後を知ってか知らずか、2人の会話はとりとめもなく続いていた。 「それにしても、今日はなんか平和な一日だったわね」 「そうね、ゴリラが珍しくいなかったからかしら」 「あと、もじゃもじゃ頭もいなかったからね」 にこやかに微笑んでいた妙は突然しゃがんで石を拾ったかと思うと、振り向きざまに鋭く右斜め後方の闇に向かって力の限り投げつけた。 弾丸のように石は飛んでいき、一瞬後に「ぐえっ」という男の呻き声が響く。 「私を欺こうなんて100年早いわ」 「すごいわね〜、よくわかったわね」 「あら、これでも侍の娘ですもの」 凄まじいまでににっこりと微笑む妙に、おりょうは目を見張った。 妙の弾丸投擲を受けて、近藤は一瞬で昏倒していた。 「きょ、局長っ!!」 「スゲェなぁ、額ど真ん中だぜィ」 目を剥いてピクリとも動かない近藤を見て、土方はため息をついた。 「‥ダメだなコリャ。おい、お前らもういいから近藤さん連れて屯所へ戻れ」 山崎が近藤を抱えるのを手伝いながら、沖田は面白そうに土方を見た。 「オヤ、土方さんはどうするんで?」 「アレでも一応女だろーが」 「さすが、女好きは言うことが違いまさァ」 「テメー俺のことを何だと思ってやがる」 「「女好きのタラシ」」 「よーしお前ら死にてェンだな!!刀を抜けェェ!!」 背後が騒がしくなったのを見て、妙はため息をついた。 「バレバレだっつーのよ。武装警察が聞いて呆れるわ」 「そうねーもっと怖い人たちかと思っていたけど」 おりょうはクスッと笑うと、いたずらっぽく口を開いた。 「ねぇ、お妙はどんな男が好きなの?」 「えっ?‥どうしたの、急に」 「お妙は結構いろんな男に言い寄られてるのに、片っ端から潰していくじゃない?どんな男が好みなのかと思って」 妙はしばらくおりょうの顔を見つめ、困ったように空を見上げた。 「そうねぇ‥おりょうちゃんはどういう人が好きなの?」 「私!?」 話を振られて、おりょうは眉間に皴を寄せて考え込んだ。 「うーん‥ウジウジ、ナヨナヨしてるヤツはイヤだわ」 「なるほど。それは私もイヤだわ」 「あとシツコイ男もキライ」 「同感ね。ストーカー行為をするヤツなんて以ての外だわ」 先程の小競り合いに早々と決着をつけ、慎重に気配を消して2人の様子を窺っていた土方は深いため息をついた。 「見事なまでに脈無しだな、近藤さん」 「あーあー、おたくの局長も報われねェな〜」 「‥お前、どこから湧いてきた」 「細かいことは気にすんな」 土方と銀時は、口で互いを牽制しあいながら2人の後をついていく。 「ねぇ、お妙は恋をしたいとは思わないの?」 「そうね‥興味はないわけじゃ、ないけど‥」 ぽつりとおりょうが呟くと、妙はまた困ったように微笑んだ。 「今は、この生活を保つので精一杯だから」 静かに言葉を紡ぎながら、妙は前を見据えた。 「支えてくれる存在があれば安心できるのにって思うときもあるわ。でも本当にそういう人ができてしまうと、私は逆にダメになってしまうんじゃないかって思うの。逃げ場がないから、自分の力を出すことに集中できる。多分、今は一人で立つ強さを手に入れるための修行期間みたいなものなのよ」 そういうと、妙はにっこりと微笑んだ。 おりょうはたまらず、妙の背中をバシッと叩いた。 「お妙‥!私が男だったら、絶対アンタに惚れてたわ!!」 「ふふ、それは光栄ね」 「私はアンタを応援する!困ったことがあったら、何でも言って!」 「ありがとう。私もおりょうちゃんの恋を応援してるわ」 「な、何言ってるのよ!私は恋なんてしてないわよ!」 「ふふ、そうね。そういうことにしておいてあげる」 慌てふためくおりょうを見て、妙は楽しそうに笑った。 妙とおりょうの会話を聞いていた2人は、思わずため息をついた。 「「‥凄ェ女だな」」 異口同音に呟いた相手に気付くと、2人は露骨に嫌そうな顔をしてお互いを見やった。 「何だオメー、お妙狙ってんの?止めとけってアレはゴリラに育てられた女だぜ?多串君の手にゃ負えねーよ」 「誰が狙ってるって言った!テメーこそあの女に惚れてんじゃねェのか?役不足だから止めておけ」 売り言葉に買い言葉で、徐々に2人の言葉の応酬はヒートアップしていく。 「はァ!?オメーの目は節穴か?この溢れんばかりの包容力と器のデカさが見えねェってか」 「ハッ!死んだような目をして、従業員に給料を満足に払えねェヤツがよく言うぜ」 「何だとテメー!ちょっと給料良くてモテるからって調子に乗るんじゃねェェ!」 「涙目で言っても説得力ねェんだよ、負け犬はとっとと帰るんだな」 「誰が負け犬だ!常に瞳孔開いてヤバい目をしてるヤツの方がヤバいだろ!テメーこそ大人しくマヨネーズの国に帰りやがれ!!」 「誰がヤバいんだコラ!!つーかマヨネーズの国ってどこだコラ!!」 妙の夜道の護衛(一応)の最中だということをスッカリ忘れて、土方と銀時は睨みあった。 「やんのかテメー!!」 「上等だ、コラァァ!!」 散々やりあい、お互いに我に返った時、既に妙は自宅で床に就いていたという。 (050212) |