斬るような寒さが足元から容赦なく全身を覆いつくす。 いつものように仕事を終えて外に出ると、見慣れた隊服に身を包んだ見慣れない男が立っていた。 「あら、あなたは確か‥多ぐ」 「土方だ」 間髪入れずに名前を名乗ると、土方はフー…と煙を吐き出して苦々しく続けた。 「誰からそんな呼び名仕入れたかは大体見当は付くが」 「そう、じゃあきっとその人で合っているわ。それよりも何か御用ですか?いくら瞳孔開いていても、こんな寒い中でじっとしていると風邪引きますよ」 「瞳孔開いてんのは余計なお世話だ!」 口の減らねェ女だな…と呟きながら土方は歩き出した。 妙も何事も無かったように歩き出す。 しばらく二人は無言で歩いていた。 白い息が時折ゆらりと上がっては暗い空へと掻き消えていく。 二つ目の角を曲がっても並んで歩く土方を見て、妙は訝しそうに土方を見上げて言った。 「…夜の見廻りかしら?マヨラー副長さん」 「あァ、言うの忘れてたな。お前さん今日ウチの局長をノックアウトしただろ。さすがに今回のは強烈だったらしくて、ついにダウンしちまったんだよ」 「あらそう。大変ねェ」 「張本人がしれっと言ってんじゃねェよ」 目を細めて妙を見下ろすと、煙を一つ吐いて土方はボソリと呟いた。 「…この辺は夜になると物騒だからな」 「…送ってくださいとお願いした覚えはないわ」 「確かにお前さんだったら、大抵の男を逆に沈められるだろうがな。世の中、大抵の範疇には収まらない野郎も案外多いんだよ」 妙は小さくため息をついた。 「要するに、近藤さんのピンチヒッターというわけですか」 「まぁ、とりあえずそんなトコだ」 それだけじゃねェがな、と胸の中で呟いて、土方は隣を歩いている妙を見た。 この寒い中、いつもの着物の上に薄物を羽織っただけで平然と歩いている。 ふと鼻先にふわりと何かが触れ、空を見上げると雪がひらりひらりと舞い降りていた。 「あら…雪?初雪ね」 「…お前さん、そんな格好で寒くないのか?」 妙はちらりと土方を見て、また視線を前に戻していった。 「寒いわね。あなたの隊服が暖かそうに見えるわ」 「その割にゃ、あんまり寒がってるように見えねえが」 「軽々しく弱音は吐きません」 舞い降りる雪とすれ違うように、妙の口から白い息が柔らかく空へと舞い上がる。 雪のような白い顔に、頬と唇がほんのりと紅く色づいていた。 そして凛と伸ばされた背筋に言いようの無い清廉さが漂う。 土方は無言で上着を脱ぐと、バサリと妙の頭に被せた。 妙が驚いて土方を見上げる。 「ちょ、ちょっと、冗談よ?」 「お前さんちまで、あとちょっとだろ?それまで大人しく被ってろ」 …これ以上見てると、どうかしちまいそうだ 胸の内で苦笑しながら、土方は妙の手を引っ張って強引に歩き出した。 (050105)拍手ログ |