片恋煩い/土妙





―――近藤さんを落とした、凶暴な別嬪。
認識としてはこれで十分だ。それ以上は要らなかったのに。




「今日もお妙さんは美しかったなぁ」

顔にあざを作り、右頬を盛大に腫らした近藤がうっとりと呟くのを聞いて、土方は煙草に火をつけながら呆れて言った。

「顔中あざだらけにしてよく言うぜ」
「何言ってるんだ、トシ!これはお妙さんと俺の、愛の軌跡だ」

近藤がそういって胸を張ると、土方は盛大にため息をついた。

「一方的な愛の軌跡だろーが。ほどほどにしとかねーと、そのうち本当にあの世に送られるぞ」
「俺とお妙さんはこれでいいんだよ」

そう言って近藤は清々しく笑う。
土方はため息の代わりに煙草の煙を細く長く吐き出した。

頬を染めて憧れの先輩への想いを語る乙女のような近藤は、正直にいって不気味であったが。
至極自然に感情を露わにする男を、土方はある意味羨ましい、と感じた。




―――涼しげな笑み 白い肌 凛と伸ばされた背筋




…こんな想いに気付かなければよかったんだ。
どこでこんなにこんがらがってしまったのか。
気付けば、あの女のことばかり考えている自分が忌々しい。


モヤモヤする気持ちを振り切るように土方は立ち上がった。

「あれ?出掛けるのか、トシ?」
「あァ、煙草が切れたから買うついでに見回り行ってくる」

外に出て、近くの販売機に硬貨を放り込みながらため息を一つ。

「ったく、ガラじゃねぇっつの」

胸ポケットに煙草の箱をしまいながら土方は歩き始めた。


普通に過ごしてたら、全く接点のない女。
潰された近藤を回収する時に二言三言話し、すれ違ったら会釈する程度の間柄。

「…何で頭から離れねーんだ」

その視線を捉えられないのが、会話が得られないのが途方も無くもどかしい。


『一言でも言葉を交わせたら』
『一瞬でもいいから視線を合わせられたら』


「どーしようってンだ、俺ァ」


冷静にツッコミを入れているとふいに曲がり角から人影が現われ、土方は足を止めた。
仕事帰りなのだろう、やや白い顔をした妙は、土方を認めると涼やかに微笑んだ。


「あら」




―――漆黒の瞳 さらさら流れる黒髪 柔らかい声




「こんばんは、副長さん」




―――ヤバい、コレは相当イカレてる。
声が耳に入るだけで、姿が目に入るだけで、止めようもなく心が綻ぶ。



「あァ……見回りのついでだ、送ってく」



これで充分だ、とその時は心の底からそう思う。
しかし時を置けば、満足を知った筈なのにその続きを熱望する。

苦しいのに甘い、堂々巡りの重い想い。
時々窒息しそうになる。


なんて幸せな、御しがたい心。



(050524)






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