春宵/銀妙




偶然に、手が触れた。


咄嗟に、それには気付かない振りをした。
ややして何気なく相手を見上げると、向こうも同じような顔をして何気ない様子でこちらを見ていた。
ぱち、と目が合うと、また何気ない様子でお互いに視線を外す。


ふいに、手を握られた。


軽く握られただけだが、伝わってくる渇いた手の温かさは確かなもので。
ちらりと見上げると、相手は相変わらず明後日の方向を見て気付かぬ振り。


妙も空を見上げながら、やんわりと手を握り返した。
一瞬置いて銀時がちらりとこちらを窺う気配を感じると、思わずくすりと笑みが零れた。


「…何が可笑しいんだィ?お姉サン」
「あら、何でもないですよ?」

しれっと応えると、あぁそうですかと呟いて銀時は空いた手で頭を掻いた。


つないだ手はそのままに、気付かない振り。


本当はもう、この感じが何なのかはわかっているけど。
今はまだこの距離のままで、もう少しだけ気付かぬ振りを。


2人で見上げた空には、柔らかく光る上弦の月。
空気も柔らかく、夜の闇までもが柔らかく春めいて見える宵だった。


「…いい夜ね」


そう妙が小さく呟くと、あぁ、と銀時も小さく呟いて繋いだ手にほんの少しだけ力を込めた。



(050418)拍手ログ






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