小説 | ナノ


逢いたくなったなら

いつの間にか脚が勝手に進み出す先は、若月がいる保健室。
いつもヒトミが世話になっている先生だ。
そして彼氏でもある。
驚くことにヒトミが二年生最後の時に若月から言われ、ヒトミが顔を真っ赤にして頷いたことで始まった。
公に出来ない関係であれど、二人だけになれば少々甘い雰囲気にならなくもない。
大概若月がヒトミをからかって終わるのだが。
口元に笑みを浮かべて保健室のドアを横にスライドさせる。
ガラッと音を立てて開け放たれたドアの先には、退屈そうに椅子に座っている若月が。
こちらに気付いた若月が、目を向けてニヤリと笑った。

「なんだ?オレ様に会いたくなってしょうがなくなったのか?」

卑しく笑う若月に、ヒトミは頬を染めて。
視線を違うところへ向けながら中にはいる。

「…会いに来ちゃ…いけません、か」

恥ずかしそうにしながらドアの前で立ち尽くしていると、若月が手招きをした。
ちょこちょこと若月の前まで近寄ると、不意に腕を引っ張られる。

「わっ若月せんせ…っ!」
「お前はオレ様のモンだろ」

すっぽりと腕の中に収まる大きさのヒトミ。
少し前は腕に収まりきらない大きさだったのにな、と笑って若月が言った。
ヒトミ自身それをわかっているので何も言えない。
うぅ、と唸れば若月の手がふわりとヒトミの頭に乗った。
よしよしとまるで子供をあやすような仕草に、ヒトミは口をへの字に曲げて顔をあげる。
すると、目の前には穏やかそうに笑ってヒトミを見つめ返す若月。
思わずドキッとして顔を赤くすれば、いつもの若月の笑いに戻っていた。

「なんだ、オレ様に見惚れて声も出ないか?」

クツクツと喉で笑う若月に、慌てて違う、と眉をつり上げる。
実際若月の言う通りだとしても、認めた方の負けという奴だ。
ヒトミの腰に添えられた手が、腰から背中へとゆるく撫で上げられる。
突然の動きに口から声が漏れ出た。

「…ったく、飽きないな、お前といると」

そう言って若月はヒトミを解放した。
即座に若月から離れ、まだ熱い頬を隠すようにそっぽを向く。
そして気持ちを落ち着かせようとするが、ドキドキと脈打つ心臓はなかなか落ち着かなかった。

「〜〜っ!若月先生のバカ!」
「バカとはなんだバカとは…ってオイ」

捨て台詞を言ったあと、ヒトミは逃げるように保健室から走り去っていた。
開け放たれたドアから涼しい風が入り込む。
一瞬唖然としたのち、若月はすぐに口元に笑みを浮かべて。
まるで楽しむようにヒトミが出ていったドアを見つめていた。

「……相当だな、オレ様も」

頬杖をついて自嘲気味に呟いた言葉は、誰に届くことなく消え去る。
それから、顔を赤くして学校内を走っているであろうヒトミを追いかけに若月は立ち上がった。


2012/06/11


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