小説 | ナノ


若月先生 大遅刻ハピバ!

高校を卒業してから大分経った。
今ではもう大学生として、課題に追われる日々。
若月先生とは卒業式のあの日があってから、今も付き合いが続いている。
高校を卒業してから大分経ったというのに、未だに龍太郎さん呼びに慣れず時々若月先生呼びになってしまうのが私の難点だった。
若月先生、龍太郎さんはあまり咎めないけれど、きっといい思いはしてないはず。
直そうとするも、いつも第一声には高校生だった頃の呼び方が出てきてしまうのだ。
「若月せんせ…じゃなくて!龍太郎さんだってば…もう…」
同居するようにもなってずっと近くなったのに、私の中では未だに先生、だった龍太郎さんが抜けていないのか。
恋人として見ていて、それなりのことをしてきたのに。
口をついて出てくるのはいつでも先生、が先だった。
心の中で何度か唱えた後に言えばしっかり言えるものの、咄嗟の時になるとまったくの無意味。
あぁもう、と低く呟いて布団にくるまる。
今日は大学の講義が昼以降なため、まだ朝な今はゴロゴロしていられるのだ。
龍太郎さんは、仕事でいない。
「だから独り言も言いたい放題なんだけど…」
ごろん、と仰向けになって窓から差し込む光を、目を細めて見つめる。
隣にいない存在に寂しく思った。
そう思ったのとほぼ同時に、私の携帯が鳴り、静かなこの部屋に軽いメロディーが響き渡った。
誰だろう、と受信音でなく着信音なのを不思議に思いながら、携帯を手に取る。
発信者の名前表示欄に「龍太郎さん」の文字があるのを見た瞬間、目を見開いて素早く電話にでた。
「も、もしもし、ヒトミです!」
『わかってるよ、お前に掛けてんだから』
「ですよね…どうしたんですか?」
『いや、丁度休憩時間になったから掛けてみようと思ってな』
くつり、と喉で笑う声がして電話越しにも関わらず、胸がざわりとした。
タイミングがいいんだか、悪いんだか。
名前を呼ばれ、多少裏返った声で返事をすれば、どうした、と聞かれる。
「いや…えっと」
『なんだよ?』
「龍太郎、さん」
『ん?』
「誕生日おめでとうございます」
『…そういうのは、ちゃんと会っていうもんだろ?ヒトミちゃん』
「うっ…」
『まぁ、帰ってからじっくり聞かせてもらうぜ』
電話越しに愉快そうな声色でそい言うと、それじゃ、と電話を切られた。
携帯を机に戻しながら、唸るしかない。
私が目の前でちゃんと言えるかどうかなんて、目に見えている。
龍太郎さん、の時点で暫くつっかえそうだなぁ、とベッドに倒れ込みながら思った。


2014/01/08

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