小説 | ナノ


理一郎(小学生)

「理一郎!」
叱咤するような撫子の声が耳を掠め、何だ、とゆるり振り返る。
そこには想像した通り、普段の見た目よりも幼く眉を寄せむくれている撫子がいた。
そうしていれば、普段の子供らしくない態度なんかちらとも見えない。
「なんだよ」
「なんだよ、じゃないわよ。いつも待ってっていってるのに」
車から降りて、俺が先に歩き出せば撫子はいつもそう言う。
飽きもせずに隣について、歩き出した撫子に小さく溜息をついた。
幼馴染とは正直、厄介なポジションでしかないと思う。
「…別に、いつもいつも、一緒に歩かなくたっていいだろ」
「よくないわよ。お父様に私、言われてるもの」
「何を」
「理一郎と出来るだけ一緒にいなさい、って」
撫子のお父様は随分と俺に気を許しているように思う。
嬉しいような、一生この関係から抜け出すことがないと言われているような。
何も知らず、平然と俺の隣に並んで歩く撫子をちらと見て、やっぱり幼馴染という関係は厄介だなと思った。


2013/09/11



- 22 -
[*前] | [次#]ページ: