小説 | ナノ


寅之助

「ちょっと、トラ」
「ん?」
課題が終わってないからとテーブルに教材を広げ、座って取り組んでいた時。
何食わぬ顔をして私の腰に腕を回すトラに、私は眉を寄せて注意する。
しかし、トラの腕はそのまま私の腰を抱きすくめ、寝転がったままでつらそうな体勢のまま自身の方へ引き寄せようとする。
流れるように私の太股に頭を乗せたトラに驚いて、肩がぴくりと揺れた。
「ト、トラ!何してるのよ…!」
「んー…ねみぃ」
「寝るならそっちで寝てよ…」
ドキドキと高鳴る心臓を抑えるように冷静になろうとするも、頬に集まる熱を無視できるはずもない。
「早くしろよな…待ちくたびれたぜ、いい加減」
「しょうがないじゃない、量が多いのよ」
ぎゅっ、と更に抱き締める力が強くなったトラに落ち着かなくなって。
ペンを置いて仕方なしにあちこちに跳ねる赤いその髪の上に手を添えた。
「…くすぐってぇ」
ゆるゆると慈しむようにその髪の毛を弄れば、そうくぐもったトラの声が響いた。
早く課題を終わらせないと、と思うのにどうにもトラに甘くなってしまう自分に笑うしかなかった。


2013/09/11



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