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ハピバ拓磨

「拓磨!」
「…ん?」
後ろから掛けられた声に、ワンテンポ遅れて反応する。
手に持ち肩にかけていた鞄をゆったりと下におろして後ろを振り向けば、長い髪を揺らして掛け寄ってきた珠紀がいた。
そんな珠紀に、俺は小さく首を傾げた。
「珠紀?お前どうしてここに…用事があるんじゃなかったのか?」
「う、うんそうなんだけど…」
「…どうしたんだ?」
なんだか歯切れの悪い珠紀に、思い当たる節もなくますます不思議に思う。
先ほど「今日は学校に残らなくちゃいけないの、ごめんね」と一緒に帰るのを断られたばかりなのだ。
用事なら仕方ないし、待っていると言ったが先に帰っててと半ば追い出されるようにされたので仕方なく帰り途を歩き出したのだが。
「えーっと…その、」
確かに、多少気分は落ち込んでいたが珠紀の邪魔になるようなことはしたくない。
そんなに遅くなるようなものでもない、と言っていたのでそれなら、と思っていたのだ。
目の前で髪の毛を正し、姿勢をぴっと伸ばした珠紀が俺を見据えて言った。
「誕生日、おめでとう!」
「…あ」
「ごめんね、本当に…帰ったら皆でお祝いするから!」
そう言い終えると、じゃあね、と笑顔で手を振りながら珠紀は去って行った。
一人残された俺はその後ろ姿を見つめながら、口元が緩むのを感じている。
周りには誰もいないというのに、無意識に頭を掻いて先ほどと同じように鞄を肩に引っかけて歩き出した。


2013/05/11



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