小説 | ナノ


バレンタイン@哉太

「哉太!」
「な、なんだよ…どうした?」
「ま、待ってよ…っ」
少し息を切らしながらやって来た月子に、哉太が平静を装って振り返る。
足を止めた哉太にやっと追い付いた月子が、息を整えると言った。
「怒ってる…?」
「…別に、」
「あれは、別にその…そういう意味じゃなくて!」
「じゃあどーいう意味だよ」
ムッと口をへの字に曲げ、少し下にある月子の顔を見つめる。
言葉に詰まった月子が俯くと、哉太はじゃあな、とだけ言ってくるりと先ほどと同じように歩き出した。
それに焦った月子は、弾かれたように顔を上げて先に行こうとする哉太の服の裾を掴む。
クンッ、と引っ張られ止まった哉太がまだ不機嫌そうに首だけ後ろを振り返る。
「…ごめんなさい」
「…」
「二人が良かったの!」
「…は?」
意を決して言った言葉は、哉太の耳をゆっくりと通り過ぎた。
「今日は皆に渡して、帰ってから哉太と二人だけで、過ごしたくて…」
「…なんだそれ」
拍子抜けして、再び俯いた月子を見つめた。
申し訳なさと恥ずかしさが入り交じったような表情に、今度は哉太が戸惑う。
「月子…」
「ごめんね…」
「な、何言ってんだよ、俺の方こそ…」
悪い、と謝った哉太に月子が首を振った。
すれ違いに、勘違い。
思い返して恥ずかしくなった哉太は、それを隠すように月子の頭を優しく撫でた。

2013/02/15



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