小説 | ナノ


刀真 キーホルダー

「鬼崎君!」
面倒くさそうにしながらこちらを向く刀真が、少しびくりとする沙耶を見据える。
呼んだ本人が怯えるのもどうかと思うが、刀真はそんな気持ちを全面に出すかのように眉間に皺を寄せて。
「…なんだよ」
「あ、あの…」
仕方なしにそう言えば、少し遠慮がちに沙耶が手を前に出す。
意図がわからず首を傾げた刀真に、沙耶は慌てて握っていた手を開いた。
その掌には、小さなキーホルダーのようなものが。
「あ、あげる…!」
「…は?」
「いや、えと、い、犬飼先輩が…っ」
精一杯声を出して、強引に刀真の手にそれを握らせるとすぐに立ち去った。
呆気にとられていた刀真は、その走り去る足音にハッとして手を開く。
決して悪くない、寧ろセンスのいいと思われるキーホルダーが、掌に乗っていた。


2012/06/19


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