5.あの日の約束を今
「ちか兄、そろそろ大丈夫……ちか兄?」
只今ベッドの上でちか兄に抱きしめられて、慰められており…とよく考えてみればすごい恥ずかしい状況。
涙もおさまり、ちか兄と離れたくないとは思いつつも離れなきゃと思い、ちか兄の胸を手で押したけれど体が離れなかったのは私ではなくちか兄のせいだった。
「ねえちか―」
「なあ名前、いい歳しても3つ年下の幼馴染が好きっていう野郎ってどう思う?」
「へ?」
「だから、そんなのってやっぱり女々しいやらかっこわるいやらねえのか?」
ちか兄はわざとこんなことを聞いてるんだろうか。顔見て確認しようと思った。だけど、抱きしめられたままではどうにも体が動かず確認できなかった。
だからといって、素直に言うのはなかなか難しく返答に困った私は少し変えた質問を投げかけた。
「…ちなみにちか兄はいい年しても3つ年上の幼馴染が好きだっていう女の子のことどう思う?」
「俺かー。俺はその逆の立場だからそいつの気持ちはわかんねえけど相手はすんげえ嬉しいだろうし、そいつも可愛いと思う」
「ねえちか兄。わざと?」
「ああ」
「………」
やっぱりか。ちか兄だけあってちゃんと考えるべきことは考えてらっしゃる。
多少なりともちか兄に私の気持ちはばれてるかもしれないという覚悟は心のどこかであったのかもしれない。自然とちか兄の言葉を受け入れいていた。
それでも返す言葉が見つからず黙り込んでしまう。
「さっき政宗に聞いた」
「………」
「ずっと俺のこと好きなんだって」
あれ。
確かにちか兄に気持ちばれてるかもとか思ってたのかもしれないけど。まさかの伊達先輩が言っちゃったパターンで。笑いたいやら怒りたいやらの気持ちが混ざる。
「大学入ってから名前ずっと政宗んとこいたから政宗が好きだって勘違いしてた。それで馬鹿みたいにむっとして女連れ歩いたりしてたけどよ…やっぱり好きな女は今までみたいに諦めきれねえもんで」
「…前ふりが長い」
「ちっとは待てって馬鹿野郎。
じゃあご希望通りに最後に…俺がまだ姫だって呼ばれてたとき約束したこと覚えてるか?」
忘れるはずもないあの会話。
私がいくらちか兄が遠いと思っても希望を持たせてくれたあの会話。
『ちか兄は私が幸せにするから!』
『僕が大人になったらちゃんとプロポーズしなおすよ』
「忘れるはずがないじゃない」
「俺だって」
「でも他の女の子の方にずっといって」
「名前も知ってるだろうが、政宗に俺が餓鬼の時からずっと片思いしてるとか言ってからかわれずに済むと思うか?
それで、だ。覚えてて、名前さえよければ」
「あの日の約束を今…破棄する!」
「おう!そう言ってもらえたら俺も………は?」
やっと見れたちか兄の顔が予想通りあっけにとられる顔でつい笑ってしまった。
「あの時とはちょっとだけ気持ちが違うから、だからもう一回やり直させて」
「どういうこった?」
あの時は本当にもう可愛すぎてどうしようもなかったちか兄。
本人に言うのは恥ずかしいから、きっと言うのは数年後ぐらいになりそうだけど。成長してちか兄はかっこよくなった。
すると、幼馴染のちか兄が好きという気持ちから私の中での気持ちは変わっていた。
「長曾我部元親を一人の男として愛して、幸せにさせてください」
「ったくずりいよ」
むっとするちか兄に笑ってみせればデコピンしようとするちか兄が目に映る。それで反射的に目を閉じたけれど。
次に目を開けた時にはちか兄の顔が目の前にあった、さらっと唇を奪われていた。
「ば、ばか!嫁入り前の娘に―…というか人のことずるいとか言っておいてちか兄だって十分ずるいよ!」
声をあげて言えば、口元に人差し指を持ってこられて静かにというサインが送られる。
不服だった。不服だった…けれど、次のちか兄の行動でそんな気持ちはとんでいくことになった。
「…ずっと名前とこんなふうになりたかった、ずっと好きだった」
ちか兄が。
私を女として見てくれてた…そんな言葉。
私がどれだけ望んでても手に入らないと思ってた言葉。
「私だって…ちか兄が」
「もう”ちか兄”じゃ駄目だ、”元親”だ」
「…も、と、ちか」
「ははっ、かたことじゃねえか」
「だって慣れてないんだもん」
でもこれからもずっとちか兄こと、元親が隣にいたらいつか慣れるかな。
少し先なのか、それともずっと先のことなのか…そんなことはわからないけれど、どちらにせよ元親の未来と私の未来が同じ道にあると考えるとくすぐったい気持ちになった。
大好きな人との未来。初めて光がさした。
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最後までお付き合いくださった皆様本当にありがとうございました!!
今回幼馴染ということでして、もう何回元親との幼馴染ネタを書いてんだと一人ツッコミつつ楽しく書かせていただきました
清き一票をありがとうございました(*´∀`*)
拙いサイトではございますが、これからもどうぞよろしくお願い致します
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