3.初めての秘密

「名前最近元気なくねえか?」

「え、そうかな。でも私元気だよ、」


どうしても…。
どうしても、ちか兄と喋っててもあの窓から見た光景が頭からちらつく。
そのせいで、まだ落ち込んだままだし、自然とちか兄も避けて、自分が自然体でなくなっていることには気づいていた。



「それよりちか兄も毎晩毎晩帰ってくるの遅いって聞いたから体に気をつけてね」

「まあ大学生ともなりゃ研究だってあるしな。なかなか帰れんもんよ」


嘘だ。ついこの間も玄関先でいちゃいちゃしてたのに。
私が子供だから気を遣っているんだろうか。そのことはもしかしたら大人のちか兄にとっては普通のことかもしれない。だけど、私にとってはそれがもどかしくて仕方がない。
子供のままの扱いなんてして欲しくないし、本当のことだって話して欲しかった。



「……毎晩毎晩、女の子と遊んで大学生って楽しそうでいいよね」

「え?」


言わなかったつもりだったのに。
こんなこと言ったってちか兄を困らせるだけだったのに。

ちか兄だって一生懸命勉強していい大学に入ったことだって知ってるのに。
それを私は傍で見てたのに。


「ごめんなさい」

「いや、名前それどういうことだ?」

「言えない」


ちか兄が怒ってるわけじゃない。
だけど距離詰めて、手を握られて目が説明しろと語ってる。


「言えない、言いたくない…」

「何で俺のことなのに名前が泣きそうになってんだ」

「知らないって、言いたくないの、言えないの」

「……わかった、そこまで言うなら聞かねえけど。
 でもな、泣きそうなの放っておけねえよ」


どうした、私の頭に手を載せながら心配した顔をするちか兄。さっきとは違って、いつものちか兄になる。私の知っているちか兄になる。

あの頃のように優しいちか兄で嬉しいはずなのに。

だけど、同時にずっとずっと私はちか兄にとって幼馴染なんだと。
馬鹿な約束してるのは子供の私だけなんだと。
そう、理解させられる。



「ごめん、もう時間ないから」



そう言って手を振り切った。

私だって都合よく嘘ついてる。ちか兄のことなんか言っちゃいけない。
時間なんてありあまってる。
だけど、このままちか兄と一緒にいたら泣きじゃくって、キスだってせがんでしまいそうだった。


子供扱いされたくない。
困らせたくない。


その二つを叶えるために、ちか兄への恋心は秘密にするしかなかった。ただ、私の心の奥に潜めるしかなかった。

ちか兄のために。
そして、私のために。








  


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