2.君が異性に変わってゆく

ちか兄だってもう大学生になれば子供じゃない。


そんなことわかってる。

だけど、まだまだ高校生になったばっかりで大人になりきれない私にはわかりたくなかった。
ちか兄との、広がっていく距離。




『やだ〜、もう本当ちかって大胆〜』

『そんな男は嫌いかい?』

『んーん、大好きよ』



部屋から窓を開けた時にふと見えたそんなやり取り。
ちか兄と、その彼女さんとのやり取り。

また変わってる。


かっこよくて、頭も良くて、人柄がいいちか兄ともなれば女なんかより取りみどりなんだろう。

街でちか兄を見かけるたびに。
学校帰りでちか兄を見かけるたびに。
ちか兄を見つけるたびに。

連れてる女性は、その度変わってる。

一度やんちゃしてた時にそんなことしてたら、いつか結婚したいぐらい本気に好きな人ができてその時に今のこと言われたらどうするのなんてことを言った覚えがある。まあそれはただ私が見ているのがちょっぴり嫌になったからだったけれど。

その時にちか兄は笑いながら、大丈夫だと言った。
何が大丈夫なのかその時の私にも、今の私にもわからない。だけど、もうその時点で私の知ってた姫と呼ばれたちか兄は消えたのだと悟った。
それと同時に馬鹿みたいに昔の約束を信じていた自分を捨てた。



『そうだよな、俺に惚れてんだもんな』


私だってとっくに惚れてた。


『うん!』


どうして、ちか兄に抱きつくの。


『ははっ、ちゃんと言えたご褒美やらねえと』


お願いだから、他の人にキスなんか…


気付いたときには窓を締め切ってカーテンを掴みながら泣いてた。

自分が昔捨てたと思っていた気持ちなんて捨てれなかった。
今だってずっとずっと心の中に残ってる。

好き。好き。大好き。

昔だって思ってたけれど、今になってその気持ちの方向が変わったことに気付く。
それが、恋心だったということに。


私だってちか兄に抱きつきたい。
私だってちか兄にキスされたい。


私の中でとうとうちか兄が一人の男に変わってしまった。





  


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