第二十一話

しばらく空の風に当たっているとだんだん冷静になってきた。

「・・・それで、私を人質にでもするつもりですか?」
「・・・・・・・・・随分冷静なものだな、悪いが俺は今後お前がどうなるのかは何も言えない」
「はあ、そうですか。
 しかし、竹中ー、さん?だっけ。策士だと謳われていますがとんでもないミスを犯しちゃったと私は見ます」
「いいから黙っておけ。
 このまま煩くするのならば、大人しくさせるぞ」
「はいはい・・・」


強硬手段でも本当は取ってもらっても構わない。
しかし、もしも竹中さんと会えるならば、意識のあるままで話したいことがある。
だから、私は大人しく体を忍びに預けていた。


しばらく飛んだと思えば、どこかの城に付いた。
そして、地下の部屋へと通され、入った途端に閉じ込められた。
・・・扱いがひどいものだ。

この部屋は、月明りだけが視界の頼りだった。
見たところ何もなく、私はじっとするしかできない。


「だいぶ面倒臭いことに巻き込まれちゃったのかなー」

自分の運の悪さには本当に呆れる。

トラックに轢かれてー
いつの間にかタイムスリップしてー
やっぱり私は人の愛情とかそういうのが駄目なんだと再認識してしまってー
今、こうして捕まった。

私は一体どうなってしまうんだろう。
そう、考えた時だった。
コツコツ、と足音が聞こえてきた。


「やあ、君が真田名前君かい?」

振り返って見れば、顔に紫の変なマスクを付けた白い服を着ている人。
・・・これはウケ狙いでも何でもないんですよね?
とにかくご本人はいたって真面目な顔をしているため、マスクについてはスルーで。

「それで、あなたは誰ですか?
 私は見たことも会ったこともありません」
「それはそうだろう。
 僕は竹中半兵衛、豊臣秀吉が率いる軍の軍師だ」
「・・・あなたが。
 私をどうするつもりですか?」
「簡単に言おう。
 そう・・・君は人質だー、・・・何故君は笑っているんだい?」


私は人質という言葉を聞いた時点で笑っていた。
佐助の言っていたことが本当なら、この人は本当に馬鹿だ。

「それで・・・政宗さんが私を助けに来るとでも思っているんですか?」
「おや、わかっているようなら話は早い」
「くくっ、・・・・あはははははっ、はっははははははは」

私は狂ったように笑っていた。

「政宗さんは此処へは来ない、絶対に。
 期待させないように正直に言っておいてあげます、政宗さんは私のことを嫌いになったばかりですから」
「なっ、」

予想外のことだったのか、竹中半兵衛は顔を歪ませた。

「そ、そんな嘘の情報を信じ込ませてももう遅い。
 政宗君にはもう君が此処へ来るということは伝わっている」
「来るわけもないのに無駄なことを・・・」
「いや、彼は来るさっ。
 君がどう言おうと僕は君が彼とともに甲斐に訪れたという報告を受けている。
 だいたい普通の女中を連れて行く訳がないだろう?」

まあ、普通ではないと思いますよ。
私のような状況の人ってこの世にはそういないと思うし。
トリップ自体そんなにあっても仕方ないだろうし。


「・・・あなたがそう信じるなら好きにしてください。
 ただし人質だからって、来なかったときに私に当たるのはやめてください」
「随分政宗君を信用していないみたいだね、君は・・・」
「政宗さんを信じていないんじゃないんです。
 他人自体が信じられないんです、私が信じられる人はこの世には一人しかいませんよ。
 どうせ、そんな性格なんです」
「君を何だか近く感じてしまうね、そういう面では」
「どうでもいいので早く出て行ってください」
「そうだね、僕も失礼するよ」

後ろ手で手を振って竹中半兵衛は出て行った。
私にはとりあえず竹中半兵衛の存在が不思議だった。
史実では政宗さんが19の時竹中半兵衛は死んでいるはずだ。
でも、この世界では生きている。

この世界はどこかがおかしい。
私が知っている世界とは異なるところがいくつもある。
元々なのだろうか?
・・・・・・それとも、本来いないはずの私がいるから変わってしまったんだろうか?
後者の方が答えならば、私はいてはいけないんだ。
でも、帰り方がわからない。
だから、どうしようもない。

でも、時たま思う。

此処へ来た時みたいにほとんど死ぬようなことになれば戻れるのではないかと。

でも、

それでも、

死ぬのは少し怖い。










  


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